山梨県笛吹市境川地区。実験線工事の建設残土は、かつての谷を平坦な土地に変えてしまった

2013年10月。静岡県の西原茂樹・牧之原市長は、JR東海が縦覧を開始したリニアの「環境影響評価準備書」の内容を知って、驚愕した。

準備書とはJR東海がリニア計画沿線で行った、環境アセスメントの結果と、今後の工事概要を伝える報告書である。27年開業予定のリニアは、静岡県では最北部の南アルプス地域を11キロメートルだけ通過する。が、山岳トンネル工事が水脈を断ち切ることで、大井川の流量が毎秒最大2トン減る、と明記されていたのだ。

毎秒2トン。これは、牧之原市も含めた近隣7市(藤枝、焼津、島田、掛川、菊川、御前崎)が有する、水利権量と同じ規模だ。「しかも」と西原市長は続ける。「当市は大井川だけが水源のすべて。渇水期には生活用水や農工業用水がどうなるか、予測もつかない」。

準備書の縦覧が始まるまで、静岡県内でリニアを問題視する人は、極めて少数だった。リニアが通過するのは“無人”の南アルプス。中間駅も建設されないから、関心の対象外だったのだ。一方のJR東海も、太平洋岸の牧之原市などを「関係自治体」ではない、として準備書を送付していない。西原市長が準備書の内容を知ったのは、関係者に教えられてからのことである。