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『人工知能と21世紀の資本主義』『トッド 自身を語る』 『思想家としての石橋湛山』『ドイツ帝国の正体』

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人工知能と21世紀の資本主義─サイバー空間と新自由主義
人工知能と21世紀の資本主義─サイバー空間と新自由主義(明石書店/313ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
もとやま・よしひこ●国際経済労働研究所理事長。京都大学名誉教授。世界経済論専攻。金融モラルの確立を研究テーマにしている。日本国際経済学会顧問。1943年神戸市生まれ。京都大学教授、大阪産業大学学長などを歴任。著書に『金融権力』『アソシエの経済学』など。

職人的な正規雇用者の生活は守れるか

評者 北海道大学大学院教授 橋本 努

新自由主義の最後のフロンティアは、ITが切り拓くサイバー空間と言えるかもしれない。

たとえばウーバーという新参のタクシー会社がある。運転手たちはみな非正規雇用。ユーザーたちは、事前にタクシー予約用のアプリをスマホにダウンロードしておく。そのアプリを使って「配車ボタン」を押せば、運転手の一人が指定場所まで迎えにくるという仕組みである。支払いは事前に登録したクレジット口座から引き落とされる。実に効率的なビジネスである。

だがこの仕組みが進展すると、正規雇用の運転手をかかえるタクシー会社は軒並み淘汰されるのではないか。すでに欧州諸国では抵抗運動が高まっている。日本では消費者利益として歓迎されるが、これは雇用を破壊する新自由主義の戦略ではないか。本書は職人的な正規雇用者の生活を守るという観点から警鐘を鳴らしている。

ところがITは、ますます雇用を奪っている。コールセンターのオペレーターたちは、スマホの普及や自動音声装置の開発によって失業の危機に瀕している。マクロ的にみると米国では、ほぼ半数の職種で人工知能による雇用減がみられるという。しばしば指摘されることだが、アマゾン、アップル、フェイスブック、グーグルの時価総額は1兆6000億ドルに達する一方、社員数は4社全部足しても19万人にすぎない。IT産業は雇用を生み出さずに巨万の利益を上げている。しかもIT産業の労働者は、30歳前後で「マセメティカル・デス(数学的死)」を迎え、ゴミ扱いされてしまうこともまれではない。クラウド・サービスの隆盛は、大手各社が抱えるシステム・エンジニアを無用にしつつある。

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