GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史
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Diane Coyle●英マンチェスター大学教授。英オックスフォード大学で哲学、政治学、経済学を学び、米ハーバード大学で経済学の修士号と博士号を取得。英財務省アドバイザー、競争委員会委員、民間調査会社のエコノミスト、有力紙の経済記者を務めた経験もある。

20世紀以降の経済問題をGDPを素材に俯瞰

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

当初2015年10月予定だった10%への消費増税は、17年4月に延期された。14年4~6月に続き、7~9月もマイナス成長だったことが影響した。日本の潜在成長率は0.3%。簡単なショックでマイナス成長に陥るため、それで右往左往したのでは改革も進まないが、対応を誤り政権交代に追い込まれたケースもあったから、高度な政治判断がなされたのだろう。

本書は、時として政権の命運を左右するGDPをめぐる諸問題を論じたものだ。無味乾燥な経済指標の解説書とは一線を画し、GDPを素材に、20世紀以降の経済問題を俯瞰する素晴らしい読み物に仕上がっている。

一定期間に生み出された一国の付加価値の合計を示すGDPは新しい概念で、大恐慌と第2次世界大戦の時代に生まれた。何を含めるべきか今でも議論になるが、生みの親でノーベル賞学者のクズネッツ教授が、福祉や豊かさを考慮しないと批判していたのは興味深い。教授は、軍事費や大部分の広告費、金融や投機にかかわる出費はGDPから除去すべきと主張していた。戦費調達能力を探るためGDP統計を必要とした米政府は、軍事費増加でGDPが計算上減るのを甘受できなかった。

戦後の高成長が終わる1970年代から各国でアンチGDP的発想が広がり、それが近年流行の幸福度の測定につながる。しかし著者は、問題は多いが、経済全体の成長ペースを把握するにはGDPが適切で、ほかで代替は困難と結論する。社会が供給可能な福祉水準もGDPの成長に密接に関連するはずだ。

ただ、サービス化、複雑化する現代経済において、GDPは時代遅れになりがちで、たゆまざる改良が必要だ。たとえば資本ストックには減耗という概念があるが、従来から指摘される通り、環境の持続可能性を重視し、自然資本にも減耗の概念を導入すべきだろう。金融機関の生み出す付加価値の計算方法も見直す必要がある。現行では、金融機関がリスクを取ると付加価値が生まれることになり、英国では金融機関の付加価値が金融危機の際、最も大きかったという奇妙な事態が観測された。

ボランティアの増加や仕事と遊びの境界が曖昧な職業が増えていることなどにも、GDPは対応する必要が出てくる。