さいお・たけお●群馬大学卒。同大精神科を経て、内科医として勤務した後、労働衛生に携わる。『精神科医 隠された真実』など著書多数。K&S産業精神保健コンサルティング代表(撮影:尾形文繁)

数多くの企業で産業医を務めてきたが、いずれも前任医師が「精神科領域の病気を診るのは無理」と診察を拒否した職場ばかりだ。ホワイトカラー職場の産業医はメンタルヘルスを診るのが業務の大部分。にもかかわらず産業医の多くはこの領域の経験や知識がなく、診察を避けているのが現状だ。活動実態がなく事実上名義貸しの産業医も珍しくない。この状況で制度が始まり、「ストレスチェックはやりません」と言う産業医が少なくないのは当然だ。

高ストレス者を面接した医師は事後の処遇について意見を書類に残すが、この責任は重い。処遇自体は事業主の責務だが、万が一裁判などになれば書類に残された医師の意見も重要な材料として扱われるだろう。企業寄りの立場を取る産業医が現状では少なくないが、いざ問題化すると実は社員の主張が正しかったというのはザラ。もしストレスチェックの面接で産業医が「わからないからとりあえず会社の意を酌もう」と考えて勤務が可能か不可能かを判断したら、結果として企業も医師もリスクを抱える。その責任を回避する目的で、反対にとにかく要休業と判断する医師も相次ぐだろう。