ロクな財産もないので遺言など書く気はまったくないが、家人に折に触れ告げていることがある。「オレの死後、カネを貸しているので返してほしい、と言う人があったら絶対に応ずるな。これは飲み屋の勘定も同じだ」。

私は若いときからカネの貸し借りはしたことがない。飲み屋でツケを残したこともない。どんなに親しい友人でもカネの貸し借りは避けてきた。往年のフランス映画『我等の仲間』(ジュリアン・デュヴィヴィエ監督)が、そのことをテーマにしているが、カネ(さらに女)が絡むと鉄石のような友情も結局は割れ、お互いに身の不始末に至る。だから人にカネを貸すときは「あげたことにする」と思ってきた。