特効薬イベルメクチンのもとになった抗生物質エバーメクチンの分子模型を手に。韮崎市の自宅書斎で(撮影:尾形文繁)

「私の仕事は微生物の力を借りているだけで、私自身が難しいことをしたわけでも偉いわけでもありません。私は、微生物がやってくれたことを整理しただけです」 ノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった10月5日の夜、北里大学の大村智(おおむら・さとし)特別栄誉教授(80)は自らの業績をこう振り返った。

大村を知る誰もが認める、その謙虚な人柄をうかがわせるに十分な言葉である。他方で、生来の負けず嫌いで、自らが関係することは徹底的に極めようとするきちょうめんさを併せ持つ。

「失敗は怖くない。あきらめたらそこで終わり」という信条で、大村はどんな困難に遭っても最大限に努力することを自らに課してきた。

ノーベル賞受賞を機に大村の偉業はよく知られるところとなったが、特筆されることは、大村が研究者として超一流であるだけでなく、法人経営者や教育者、社会貢献でも輝かしい業績を上げていることである。

大村は「四つの顔」を持つ。今年7月、国際的に権威のあるガードナー国際保健賞と、日本の朝日賞の受賞パーティが開かれた際、発起人代表としてあいさつした岩井譲(元・北里研究所所長補佐)は、大村の業績を四つに分けて紹介した。

一つ目は、研究者としての顔だ。山梨大学を卒業後、都立の夜間工業高校の教師から研究者に転じ、数々の抗生物質を発見して重篤な熱帯病を撲滅寸前まで追いやった。国際的な産学連携を主導し、約250億円の特許ロイヤルティを研究現場に還流させた実績は、今後容易に破られまい。

二つ目は、法人経営者としての顔だ。放漫財政により瀕死の状態に陥っていた北里研究所を立て直し、新しい病院を建設した。独学で蓄えた財務知識はプロも認めるほどで、再建に辣腕を振るった。