やまのい・じゅんいち●早稲田大学商学学術院准教授。1977年生まれ。米コネチカット大学でPh.D.取得。香港中文大学、中央大学を経て2015年から現職。(撮影:今井康一)

イノベーション=発明ではありません。発明しただけでは企業は生き残れません。

今では乗用車に普通に装備されている「エアバッグ」を例に取りましょう。これは1964年、起業家であり技術者でもあった小堀保三郎氏が発明し特許を取得したものです。ただ、長らく商業化されることはなく特許切れとなり、80年に独メルセデス・ベンツが搭載して、ようやく日の目を見ました。発明としては成功したのに、新たな経済価値を生み出すには時間がかかりすぎました。

イノベーションは自由な経済・研究活動から生み出されるものです。これまで経営学では、なぜイノベーションが生まれたのか、生み出せた理由は何だったのか、そしてそれはどのような個人や組織によるものだったのか、さまざまな角度から研究が進められてきました。

「イノベーターのジレンマ」という言葉をご存じでしょうか。シェアの高い事業を持つ企業は、その事業が魅力的であればあるほど、微小な改良にとどまってしまう。その結果、新たな特徴ある製品・サービスを生み出した新興企業に大きく後れを取ってしまうという理論です。イノベーションを左右するのは事業規模ではなく、イノベーションを起こすインセンティブの差なのです。

そのほかにも、イノベーションの分野では多くの実証研究があります。資金や人的資源など、企業が現在の企業活動を維持する以上の資源、いわば余剰資源(組織スラック)を持っていればイノベーションを促進しやすいこと。また、長期的な発展を望む機関投資家がいたり経営陣が自社株を保有していれば、イノベーションへの投資を促進するという研究結果も出ています。

2001年には「イノベーションのトラップ」という概念が提唱されます。成熟した大企業であれば、より安全な製品・サービスをきちんと製造・販売・提供するためのプロセスが必要となり、それを管理する仕組みが大事になる。そうなると、新しいものを生み出そうとする姿勢が乏しくなるという考え方です。