にわかに逆風に立たされている安倍晋三政権。「違憲」との評価を受けながら採決を敢行した安全保障関連法案に批判が集まる。欧州、中国など不透明な海外経済も、先行きに暗い影を落とす。最新の新聞世論調査では軒並み支持率が政権発足以来最低を記録した。

苦境挽回なるか、それを占う意味で注目されるのは首相の参謀役、菅義偉・内閣官房長官の手腕だ。

彼が屋台骨を支えるというのは衆目の一致するところだ。2012年、安倍に最初に総裁選出馬を進言したのは菅だった。政権発足後、経済再生が最優先と見据え、後のアベノミクス路線につなげたのも菅だ。昨年は消費再増税見送りと解散総選挙勝利のドラマを演出した。

「もし菅さんがいなかったらもっと安定性を欠き、今のような長期政権には至らなかったかもしれない」と政治学者の御厨貴・東京大学名誉教授は言う。

秋田県のイチゴ農家の長男として生まれ、高校卒業後上京。働きながら大学を卒業し、政治家秘書となる。そして横浜市議会議員、国会議員へと進んだたたき上げだ。

複雑な利害の調整力と官僚への統率力には特に定評がある。その永田町屈指といわれるマネジメント力はどのようなものなのか。関係者の証言、本人インタビューを交えて、その手腕を解剖しよう。

ポイントは五つの技術だ。1.「仕事の任せ方」、2.「空気、理屈、筋道作り」、3.「会議術」、4.「人事術」、そして5.「人心掌握」である。

任せ方:子細な中身に介入せず「思い切って任せる」

菅は人に仕事を振った後、一歩引いて任せるスタンスを徹底する。途中で子細な内容に口を挟まない。その方が任された人のモチベーションを向上させられ、任せた本人もより多くの仕事に対処できる。

「私は今、減反見直しという40年ぶりの改革をしているところです。このうえさらに60年ぶりの農協改革を進めるのですか」

農協改革をやってほしい──。13年秋のことだった。当時農林水産副大臣だった吉川貴盛は菅からの要請の電話に驚き、こう返したという。農協は自民党の伝統的な集票基盤である。与党内をまとめきれるのか不安を持った吉川に菅は「総理も農協改革に期待していますから」と、実行役の一員を託した。