トヨタって、まるで江戸幕府みたいですね──。グループ会社の若手社員がつぶやいた。頂点に位置するトヨタ自動車にデンソー、アイシン精機など「トヨタグループ」と称される上場クラスの企業が続き、さらに系列企業がそれを取り巻くヒエラルキー構造。確かに、徳川家との距離により親藩・譜代・外様……という序列があった江戸幕府に通じるものがある。トヨタの場合、核となっているのは創業ファミリーである豊田家だ。

だが、豊田家はこの巨大グループを資本の論理で支配しているわけではない。創業家に近いトヨタ自動車OBは「豊田章男社長ら豊田家のトヨタ自動車に対する株式所有比率は1%未満。親族を含めても1%台しかない」と明かす。オーナーというにはあまりにも少ない数字で、独フォルクスワーゲンにおけるピエヒ家やポルシェ家(→「“暴君”ピエヒの正体」参照)、米フォード・モーターのフォード家などとは比較にならない。

「やりましょうよ」が原点

豊田家の求心力はむしろ、トヨタを創業するまでの佐吉、喜一郎といった先人たちのベンチャー精神とその苦闘の歴史そのものから生まれている。新入社員がまず教わるのはトヨタ生産方式ではなく、創業者たちの残した精神についてだ。トヨタは名古屋駅近くの産業技術記念館をはじめ、立派な博物館を愛知県内の数カ所に持っている。創業者や彼らを支えた人々を顕彰し、「伝説」を生む仕掛けという趣が強い。