犬将軍―綱吉は名君か暴君か
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Beatrice M.Bodart-Bailey●大妻女子大学比較文化学部教授。ドイツ生まれ。オーストラリア国立大学大学院修了。文学博士。国際日本文化研究センター客員助教授、トロント大学客員教授、神戸大学経済学部教授など歴任。著書に『ケンペルと徳川綱吉』『ケンペル、礼節の国に来りて』など。

綱吉が武士に求めた 農民を慈愛する行政

評者 早稲田大学教授・東京財団上席研究員 原田 泰

徳川5代将軍綱吉は「生類憐みの令」を発布して民を苦しめ、贅沢で愚かな将軍であったとされている。しかし、当時、オランダ商館付きのドイツ人医師ケンペルは、綱吉を賢明で憐み深い君主と賞賛している。ケンペルの記録は日本を知るための基本的文献とされ、綱吉はヨーロッパにおいて賢明な君主と評価されていたという。

普通の日本人にとっても、綱吉の治世の元禄時代は、文化の栄えた時代として知られている。俳諧、歌舞伎、浄瑠璃、琳派、浮世絵は、この時代に生まれた。庶民が苦しんで、これほど素晴らしい大衆文化が栄えたはずはない。では、このギャップはどこから生じたのか。

著者は、綱吉を批判したのは人口の7%の武士で、元禄の繁栄を記したのは町人であるという。綱吉は武士の特権を奪って、国内に平和と繁栄をもたらしたが、武士はそれを歓迎しなかった。ヨーロッパでは、長い動乱と破壊を引き起こした諸侯の支配よりも、独裁的な王による平和が歓迎されたが、日本でもそうだったというのである。