紙幣で紙袋400個、金塊にして4トン。身代金としては法外な額は、「イスラム国」が日本へのテロを本格化させるメッセージだ(時事/湯川さんのフェイスブックより)

今回は、時事問題を通じて、情勢分析の落とし穴となる擬似命題(擬似問題)について考えてみたい。擬似命題とは、〈有意味な命題に見えながら、実は無意味な命題のこと。論理実証主義(ウィーン学団)において、多くの形而上学的命題はこの擬似命題であるとされる〉(『岩波哲学・思想事典』)。平たく言い換えると、質問の仮定や前提が間違っていたり、検証できない事柄によったりするために、答えがそもそも存在しない問題のことだ。

「ウサギの角の先はとがっているか、それとも丸いか」という命題について考えてみよう。この命題について激論をしても意味がない。なぜなら、ウサギには角がないからだ。

これとまったく同じことがイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による日本人人質事件でも生じている。1月20日、「イスラム国」の構成員と見られる男が、72時間以内に2億ドルを支払わなければ拘束している2人の日本人を殺害すると述べた動画が、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開された。動画には、ジャーナリストの後藤健二氏と民間軍事会社経営者の湯川遥菜氏がオレンジ色の服を着て座っている様子が映っていた。過去に「イスラム国」は、米国人、英国人などを殺害する画像をウェブ空間で公開したことがあるが、被害者はいずれもオレンジ色の服を着せられていた。

その後、マスメディアは「日本政府は身代金を支払うべきか否か」というテーマを積極的に取り上げた。複数の新聞社、通信社から筆者にも、「身代金を支払うことに賛成ですか、反対ですか」という電話取材があった。筆者は、「それは典型的な擬似命題です」と言って、ウサギの角の命題について説明した後にこう続けた。