
最近の労働市場関係の指標を見ると、企業による求人数が増加するとともに完全失業率が低下しており、労働者にとって好ましい状況が生じている。しかし、長期的な観点から不安をもたらす指標もある。その一つが、自営業主や会社役員などの非雇用者が就業者に占める割合である非雇用者割合だ。これは1950年代の50%台半ばから長期的に低下しており、2014年11月は11%にまで落ち込んでいる。
自営業の長期的な減少の背後には、産業構造の変化や規制緩和による廃業の影響だけでなく、ほかの先進国に比べて開業率が低いという問題がある。実際、最近の開業率はフランスが約15%、米国、英国が10%前後であるのに比べて、日本は5%を割り込んでいる。開業率の低さは日本において起業活動が活発ではないことを意味する。これは単に企業参入が減ることで雇用の受け皿が小さくなるといった問題ではない。
一国の生産性向上の主要な部分は、新しい企業が参入しイノベーションを市場にもたらすとともに、それが効率の悪い企業を退出させることよって生じる。これはシュンペーターのいう「創造的破壊」にほかならない。そのプロセスにおいて雇用創出が実現するので、新興の中小企業が果たす役割は非常に大きい。したがって、起業活動の低迷は日本における経済活動のバイタリティや雇用創出力を長期的に低下させる要因になりかねない。日本の雇用創出率は約6%と、米国や英国の半分以下にすぎず、新規雇用を生み出す能力の低さを反映している。
なぜ日本の開業率が低いのか。これまでの調査を総合すれば、いくつかの要因が複合的に関与している可能性が高い。
まず、起業に至る障壁が高い。世界銀行の調査によると、日本は会社登記に要する手続き数、会社登記にかかる日数、1人当たりの所得に占める開業コスト比率で測定した起業環境指標が世界で120位であったという。昨年の「中小企業白書」はこのことについて、「起業環境が世界120位という不名誉な結果をどう挽回していくかについて、政府を挙げて知恵を絞り、果敢に実行していくことが求められている」とまで書いている。こうした起業環境の整備は、早急に進めるべきだ。
同時に人々の起業マインドの影響も無視できない。起業活動の国際比較のためにロンドン・ビジネススクールなどが中心になって実施している「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター」という調査がある。この調査(2013年)によると、日本では事業を始めるために必要な知識・能力・経験を有すると自己評価する成人が13%と少なく、調査対象の70カ国中最下位。そしてこの要因は、日本の起業活動の低迷と明確な相関がある。また日本では事業を失敗することに対するおそれが強く、そのために起業を躊躇する成人人口の割合は49%と、これも同率4位の高さである。