【今週の眼】柳川範之 東京大学大学院教授
やながわ・のりゆき●1963年生まれ。慶応義塾大学通信教育課程卒業。93年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。東京大学助教授などを経て2011年から現職。主著に『法と企業行動の経済分析』『独学という道もある』など。(撮影:今井康一)

大きく変化する世界経済を前に、今後はリスクを積極的に取る経営が必要だといわれることは多い。しかし、リスクを取る経営を遂行する際に実際に求められる判断は、どこまで浸透しているだろうか。

たとえば、50%の確率で、100の企業業績が3倍の300になるような投資機会があったとしよう。ここで企業業績が何を指すか細かい点は問わない。とにかく企業の収益状況を大きく拡大させる機会が存在し、賃金も配当も3倍にできるチャンスがある。ただし、その一方、50%の確率で業績は大きく低下して0になってしまい、会社は市場から退出せざるをえなくなると仮定する。

リスクを取ってこの投資を行えば、期待値で見れば150になりうるから、リスクを取る価値の十分にある投資にみえる。が、読者の皆さんはこの投資を実行できるだろうか? 実は、日本企業の、少なくとも大企業の経営幹部は異口同音に、このような投資の実行は難しいと答える。この例を、成功確率が90%で業績が10倍になると変えても、答えは同じである。