「実質賃金」は、昨年の流行語とならなかったのが不思議なくらい、今や説明すら不要な言葉になった。そして「実質賃金の上昇」は、一般の勤労者や家計にとってのみならず、安倍晋三首相にとっても「今年の初夢」と呼ぶべきものであろう。

足元の失業率は3.5%に低下し、有効求人倍率は1.1倍と1992年6月以来の高水準である。労働市場の需給の引き締まりから、短期的には、両者を均衡させる実質賃金は上昇が見込まれる。

他方、やや長期的に見て、生産側を考えると、実質賃金の持続的な上方シフトが実現するためには労働生産性の上昇が生じる必要がある。さもなくば、実質賃金の上昇は一時的なものに終わる。そのメカニズムは次のとおりだ。

すなわち、実質賃金の上昇とは、名目賃金の上昇率が物価の上昇率を上回ることであり、家計にとっては以前よりも購買力が増すことを意味する。しかしながら、労働生産性が以前と変わらず、生産されるモノやサービスの量が増えなければ、「以前と同じだけの量の生産物を、以前よりも多くのおカネが追いかける」ことになる。結果として、物価は上昇する。つまり「実質賃金の上昇→総需要増大と生産量一定の組み合わせ→物価の上昇→実質賃金は振り出しに戻る」となる。

重要な示唆は、実質賃金の持続的な上昇を可能にするのは政府でも企業でもなく、労働者でしかないということであり、われわれ自身が「知恵を絞り、懸命に働いて」生産性を引き上げるよりほかない。

株価の基礎となる企業の利益を考えると、実質賃金が上昇する一方で生産性が伸びなければ、利益率(マージン)が圧迫され、マイナスに作用する。実際には多くの企業は一定のマージンを確保すべく価格設定を行うため、販売価格が引き上げられる。結論は前述と変わらない。

労働生産性の上昇難しく