はしづめ・だいさぶろう●1948年生まれ。72年東京大学文学部社会学科卒業、77年同大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。著書に『ジャパン・クライシス』(筑摩書房)など。(撮影:ヒダキトモコ)

経済学には、教科書にはっきり書かれていない“無言の前提”がたくさんある。それが見えていたアダム・スミスやケインズは一流の経済学者だ。今の日本経済は、教科書にも載っていない異様な状態。それを教科書のことしかわからない並の経済学者が下手にいじくるから、ますます症状が悪化する。

過去の繁栄は、製造業が日本に集中し世界に輸出できた時代のものだ。それがグローバル化で技術も資本も速やかに移動し、コストの安い諸外国が優位に立っている。日本の賃金は中国やインドに向かい押し下げられる。国内に従来並みの賃金が払える製造業を残したければ、まったく新しい種類の産業を生み出すしかない。

この流れは冷戦が終わった25年前から始まった。それを前提に政策を立てるべきだった。「景気対策」しかやらなかった結果、国債が1000兆円も積み上がった。

まだ景気対策しか口にしない経済学者・政治家は、全員お払い箱にすべきだ。

公共投資が景気を刺激するというケインズの理論は、土地や労働力や資本設備が余っていて財政が均衡していて、短期の赤字国債を増発する場合だ。しかも、景気がよくなったらすぐ増税して借金を返せ、とちゃんと書いてある。何十年も赤字国債をたれ流す日本のやり方は、ケインズ政策となんの関係もなく、景気対策にすらなっていない。

互いの顔色を見て意思決定する。日本人の悪いクセだ。どんなに合理的な選択も、誰かが反対すると決定できない。逆に愚かな選択肢が、全員賛成なら決まってしまう。これで何回失敗したことか。戦前は陸軍も海軍も政府も、負けるから開戦しないと言えなくて、対米開戦を回避できなかった。そして今は誰も、「増税する」と言い出せないでいる。

政治家は有権者の顔色を見ながらおっかなびっくり選挙に臨む。増税を言えば落選するから、ほんとうのことが言えないのは有権者が悪い、と。きちんと説明されないのに、合理的な選択ができるはずがない。有権者のせいにするのは見当違いだ。給料をもらっている政治家は、真実を説明するのがプロの務め。有権者の耳に痛いことを言うのが義務である。「消費税は据え置きだとこうなります。増税すればこうなります。どちらがいいでしょう」と提示すべき。それをしてはじめて、国民は真剣に考えることができる。

私に言わせれば、1000兆円を超える政府債務があるのに増税すると言わない政治家は無責任だ。耳当たりのいい言葉を並べて有権者をあざむくのは、これ以上ない悪者だ。