さとう・まさる 1960年生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。『自壊する帝国』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『読書の技法』『獄中記』など多数の著書がある。(撮影:尾形文繁)

生き馬の目を抜く政官の舞台裏で交渉テクニックを磨いてきたのが、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏である。その技巧はビジネスの現場でも大いに参考になるはずだ。

──交渉力で修羅場をくぐり抜けてきたという印象があります。

政治家相手は難しい。政治家の持つ知識にばらつきがあることが問題だった。きまじめに話の誤りを指摘すると、「君、入省何年だ? 局長に君のことをよく話しておくよ」とにらまれる。「元気があっていいじゃないか」というせりふは、「おまえは終わりだ」という意味だ。

政治家が「イラン人はアラブ人だ」と発言したとしよう。「先生、確かにおっしゃるとおりで、イランの中でもごく一部ですが、アラブ系の人がいます。ニョロニョロッとアラビア語のような字を書きますよね……」と話の一部を肯定する。そして、徐々に正しい方向へと上書きしていく。

「ただ先生、あれはペルシア語なんです。アラビア語とはちょっと系統が違いまして、ペルシア語はドイツ語や英語に近い。先生のお話をきちんと伝えるためには、イランに関してはアラブというよりはペルシアというご認識で表現されたほうがより正確になります」という具合だ。

「そういえば、そうだな。君、いいところに気がつくじゃないか。イランはペルシアだから、気をつけないといけないね」と言ってくれたら狙いどおりである。

政治家は自分にとって役に立つと思えばいくらでも話を聞いてくれる。基本的には話し上手な人たちなのだが、そういう人たちは面白い話を聞くのが大好きな人種だ。引き出しの中に話のネタがたまっていくのが好きなのである。

政治家が使う説得術