外務省欧州局はたるんでいる。このままだと安倍晋三前首相とロシアのプーチン大統領の「シンガポール合意」(2018年11月)が死文化し、菅義偉首相が進めようとする対ロシア外交は頓挫する可能性がある。

最近、看過できない出来事が2つあった。第1は国後(くなしり)島からの「亡命」希望者だ。少し長くなるが、朝日新聞根室支局(元モスクワ支局長)が詳細な調査報道をしているので紹介する。〈北方領土の国後島に住むロシア人男性が19日、根室海峡を渡って約20キロ離れた対岸の北海道標津町に現れたことが、関係者への取材でわかった。男性は同日、標津町内で北海道警に保護され、札幌出入国在留管理局に移送された。ノーボスチ通信は「ウエットスーツを着て泳いだようだ」との消息筋の話を伝えた。/同通信によると、男性が日本に亡命を求めているとの情報があり、在札幌ロシア総領事館が札幌出入国在留管理局と連絡を取っている。同管理局は総領事館に対し、「現段階で国籍と身元の特定に努めている」などと伝えたという。/国後島をロシア側で管轄するサハリン州南クリル地区行政府がインタファクス通信に明らかにしたところによると、男性は40歳前後で、ウラル地方ウドムルド共和国のイジェフスク出身。3年前に国後島に移住してきたという〉(8月22日、朝日新聞)。

北方領土は日本の管轄下にあるというのが政府の建前だ。国後島の住民ならば「国内」移動なので、出入国管理法を適用して外国人と扱うのは適当でないという議論にもなりかねない。そういうことになるとロシアは激しく反発し、北方領土交渉は頓挫する。北方領土のロシア系住民はビザを取らずに日本を訪問できる仕組みがある。こういう人が日本に到着した場合には、直ちにロシア船に乗せて、国後島に戻してしまうというのが現場での危機管理対応だ。外務省欧州局(とりわけロシア課)が緊張感を持っていれば、そのような対応をしたはずだ。