財やサービスの購入時に買い手が複数の売り手と交渉し、「個別化された価格(個別化価格)」を支払う市場は多い。つまり、同一の商品でも取引ごとに異なる価格が支払われるということだ。こうした取引は、売り手が買い手のことをよく知っている中間財の市場などで一般的だ。

近年、個別化価格での取引が行われる市場は、独占禁止法に関する調査・研究でも多く取り上げられている。こうした市場、取引形態には特別な考察が必要であるという認識があるのだ。この取引形態に関連して、2010年の米国改正水平合併ガイドライン(Horizontal Merger Guidelines、HMG)には、交渉とオークションに関する節が追加された。改正ガイドラインでは、例えば、米アマゾンのようなプラットフォーム企業によるM&A(合併・買収)なども想定されている。

筆者らは、「複数の売り手がいる市場における個別化価格」についての研究をしているが、経済学の観点から2つの問題提起をしたい。まず、個別化価格は企業の市場支配力、すなわち販売価格に対する影響力を和らげるのか。そして、個別化価格は企業同士の合併の効果(より大規模で有力な企業が誕生することになる)を和らげるのか、である。

個別化価格の要点は?

個別化価格においては、買い手にとって魅力的な代替製品があるかどうかが重要だ。1人の買い手、そして複数の売り手が競合する個別化価格の状況を考える際にポイントとなるのは、次の3つ、①最良の製品、②セカンドベストの製品(次点製品)、③最良の製品の余剰利益である。

まず、①最良の製品は、買い手にとって最大の取引余剰(価格以上の価値)を生む。②次点製品は、最良の製品とは別の売り手によって提供される商品の中で最大の取引余剰を生むものを指す。③最良の製品の余剰利益とは、これら2つの製品が生む余剰の差(①−②)である。