2021年4月、ブルーヨンダー買収の発表会見に臨んだパナソニック新社長の楠見雄規氏(右から2人目)ら(写真:パナソニック提供)
2021年にアメリカのソフトウェア企業「ブルーヨンダー」を71億ドル(約7800億円)で買収するパナソニック。しかし、巨額買収で失敗した過去の歴史を記憶している社内の役員らの間では反対する声が大きかった。
2020年秋以降の買収の議論が本格化した期間は、2021年6月の社長交代が決まった時期とも重なる。長引く業績停滞からの脱却を探る、新旧それぞれの社長がブルーヨンダーに懸けた狙いは何か。
前編では、買収の主導者として社内の説得に走った樋口泰行代表取締役専務の焦燥や、津賀一宏前社長が買収の必要性を確信した経緯を追った。後編となる今回は、巨額買収に同意した楠見雄規新社長の心中に迫る。

新社長が見た2つの現場

2020年10月末に社長の内示を受けた後、前社長の津賀氏に「おまえが反対するなら俺はやらん」と、ブルーヨンダー買収の判断を委ねられた楠見氏。津賀氏や買収の窓口役だった樋口氏の助言を受け、樋口氏がトップを務める社内カンパニー、コネクティッドソリューションズ(CNS)社を2021年1月に視察した。

楠見氏がそこで見たのは、ブルーヨンダーのソフトウェアを実際に導入したモバイルソリューションズ事業部と、製造や物流現場の効率化に向けたソリューションを提供する「現場プロセス」事業だった。

パソコン「レッツノート」の製造などを手がけるモバイルソリューションズ事業部では、製品の在庫や部材調達の状況、受注動向、納期などについて、神戸や台湾といった各工場の状況がリアルタイムでシステム上に表示されていた。

楠見氏は社長就任前の2021年1月、ブルーヨンダーの関連する事業の現場を視察した(写真は2020年11月撮影、撮影:ヒラオカスタジオ)

ブルーヨンダー導入前は、在庫や部材調達の動向に関する情報収集に追われて現場の社員が疲弊し、会議も状況を報告するだけの場と化していた。

それがブルーヨンダー導入後は、各工場の情報などを自動で細かく把握できるようになり、廃棄や評価減の対象となる在庫を導入前より1割削減できたほか、業務効率化の効果も表れ始めていた。

一方の現場プロセス事業は、センサーや画像認識技術を用いて製造や物流、小売りの各現場の状況を把握し、顧客企業に最適な業務フローや人員配置などのソリューション提案を行っている。

楠見氏は事業を担当する幹部らから、ブルーヨンダーのソフトウェアを導入したり、組み合わせたりすることにより、事業強化を図ることができるとの説明を受けた。

それぞれの現場を見終えた楠見氏は、ブルーヨンダー買収と自らが考える会社の成長ビジョンがいかに関係するものか、「腹落ちした」(楠見氏)という。