バイデンの改革不発なら中国に似た権威主義的体制に
評者/BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

『資本主義だけ残った 世界を制するシステムの未来』ブランコ・ミラノヴィッチ 著/西川美樹 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile]Branko Milanovic セルビア・ベオグラード大学で博士号を取得。ルクセンブルク所得研究センター上級研究員、米ニューヨーク市立大学大学院センター客員大学院教授。所得分配、グローバリゼーションの効果についての方法論的研究、実証的研究を多数発表。

著者はグローバルな視点で経済格差を分析する著名な研究者だ。前著『大不平等』では、グローバル化で意図せずして結託した先進国の富裕層と中国など新興国の中間層が最大の勝者となり、先進国の中間層が最大の敗者となったことを「エレファントカーブ」で示し、話題をさらった。情報通信革命をテコに、グローバル企業が生産拠点のオフショアリングを進め、それが中国経済の発展を促すと同時に、先進国から中間的な賃金の仕事を奪ったのだ。

今回は、高度にグローバル化する資本主義の強欲が際限のない経済格差を生むことを警告する。米中対立は激化し、米国は中国を怪物呼ばわりするが、生みの親はグローバル資本主義にほかならない。米国も社民主義的資本主義からリベラル能力資本主義へと醜く変容し、腐敗と格差の点では、中国などの権威主義的資本主義と大差はないと断ずる。

まず先進国では企業の利潤追求で、社会保障が脆弱化する。戦前の古典的資本主義と異なるのは、富裕層が資産所得だけでなく、高度な人的資本を武器に、多額の労働所得も稼ぐ点だ。さらに同類婚の増加でスーパーカップルに富は集中する。子弟の教育を通じて格差は再生産され、開かれた社会は失われつつある。

本書の白眉は、後進国だった中国が急成長を遂げた理由を社会主義革命に求めた点だろう。マルクスは資本主義が発達した先進国で社会主義革命が生じるとしたが、後進国では、革命が地主支配や植民地支配など旧体制を打破し、皮肉にも資本主義と経済成長の足掛かりを築いたのだ。

米国は民主体制にあるとはいえ、企業の政治献金は青天井で、支配階層に有利な政策が追求されている。富の集中がこのまま続けば、寡頭制に近づき、権威主義的体制とさほど変わらなくなる。一方、法ではなく官僚が支配する中国では、自由と引き換えに国民に約束した高成長が続かなくなれば体制維持が危うくなる。このため、民主国家以上に強いプレッシャーが支配階層にのしかかり、経済運営に細心の注意が払われる。権威主義的資本主義は思った以上に頑健なのかもしれない。

米国は超党派で権威主義体制を抑え込むというが、その膨張を助長したのがグローバル資本主義だ。バイデン政権が富裕層課税や法人課税の強化、世界共通最低税率の導入に舵を切ったのは快挙だが、踏み込み不足に終われば、グローバル資本主義の横暴は止められず、米中で双子の怪物が増長し、世界経済は腐敗と格差に沈むのだろう。