7月26日、ロシアのミシュスチン首相が北方領土の択捉(えとろふ)島を訪問し、水産加工場や病院などを視察した。同首相は、外国企業の関税や法人税を免除する特区を創設する方針を明らかにした。この3日前の23日、プーチン大統領が安全保障会議においてミシュスチン首相が近く極東を訪問することに関連し、クリル諸島(北方領土に対するロシア側の呼称)における日本との共同経済活動について「前例のない性格の提案」があるとして「必ず実現させる」と述べた。同首相が択捉島で述べた外国企業の関税や法人税を免除する特区構想は、日本との共同経済活動を念頭に置いたものだ。

北方領土は日本領であるというのが日本政府の基本的立場だ。7月26日午後、森健良外務事務次官がガルージン駐日ロシア大使を外務省に招致して訪問に対し強く抗議した。ガルージン大使は、クリル諸島は第2次世界大戦の結果、ロシア領となったので、日本の抗議は受け入れられないと答えた。これは、歌舞伎のような型にはまった外交的手続きだ。もっとも加藤勝信官房長官は、27日午前の記者会見で、ミシュスチン首相の択捉島訪問が遺憾であると表明したのに続いて、「23日、プーチン大統領は、ミシュスチン首相に対し、近く予定されている同首相の極東訪問に関し、北方四島における共同経済活動に関するロシア側の提案を最終的に形にし、実現することを期待する旨述べられたと聞いております。かかる発言についてロシア側の意図を推測することは差し控えたいと思いますが、北方領土における共同経済活動については、わが国は法的立場を害さないことを前提とし、ロシア側との協議を精力的に行ってきたところであります。政府として今回のプーチン大統領の発言については留意しているところであります」と述べた。「留意」とは、外交の世界でいう「テイク・ノート」のことで、「あなたの言っていることはしっかりと受け止めました」という意味だ。菅義偉首相がロシアの新提案に関心を示しているというシグナルを加藤長官は送っているのだ。

重要なのは、この状況でプーチン大統領がなぜミシュスチン首相を択捉島に送って注目を浴びるような状況をつくり出し、そこで特区についての提案をしたかを分析することだ。