「成長率>金利」でリスクが蓄積 利上げこそが成長を促す
評者/BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

『バブルの経済理論 低金利、長期停滞、金融劣化』櫻川昌哉 著(書影をクリックするとamazonのサイトにジャンプします)
[Profile]さくらがわ・まさや 1959年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。大阪大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学後、名古屋市立大学大学院経済学研究科教授を経て、慶応大学経済学部教授。著書に『金融危機の経済分析』『金融立国試論』など。

米国では、インフレ高進を背景に、中央銀行が金融正常化を早めるべくゼロ金利解除を前倒しする、という観測が広がっている。果たしてうまくいくのか。世界的な超低金利はコロナ危機がきっかけではない。先進国では10年も前から長期金利が成長率を下回る状況が続く。

これまで主流派経済学は、金利が成長率よりも高いことを前提としてきた。これが覆ると異常な事態が頻出する。例えば、企業は多額の借金をしても、返済を先送りするほど有利になる。借入金で株式を購入する人も増えるはずだ。金融論の大家が「高金利の経済学」に代わる「低金利の経済理論」を新たに構築した。読み応えのある1冊だ。

やはり「成長率(g)>金利(r)」はバブル醸成の条件だった。1980年代初頭の日本でまず不動産バブルが観測された。2000年前後の米国のITバブル、その後のサブプライムバブルでも長期金利は成長率を下回っていた。近年、米中貿易戦争やコロナ禍があっても世界的に株高が続くのはこのためだろう。バブルリレーがグローバル経済で蔓延する。日本の株高も、理由はアベノミクスではなく別のところにあった。

金利が世界的に低下傾向にあるのは、大きな構造変化が背景にある。多くの新興国がグローバル経済に組み込まれ豊かになったが、彼らは金融市場が未整備で安全資産を供給できない。だから、米国国債など先進国の国債を低利回りであっても購入する。近年、付加価値の源泉が無形資産に移行したことも影響する。無形資産投資は、有形資産投資ほどの多額の資金を必要としない。伝統的な銀行業は、無形資産への資金供給のノウハウを持たないため、行き場のない資金が滞留し、金利上昇を抑える。

「g>r」は国の債務の発散を避けるための条件としても知られている。利払い費を抑えられるのなら、財政再建の先送りも可能となる。日本でも低金利の継続を前提に、財政の積極活用を検討すべきだという意見が聞かれ始めた。ただ、低金利は国内要因だけでもたらされているわけではない。各国中央銀行がコントロールできない可能性もある。世界的な国債バブルは突然崩壊するリスクがあるから、財政再建の安易な棚上げは厳に慎むべきだろう。

経済構造が異なれば最適なマクロ政策も国ごとに異なるが、米国発のマクロ経済学を鵜呑みにし、日本は誤った政策を繰り返してきた。利上げこそ成長を促進するという本書の意外な提案が注目される。