米経済を経済組織論で解明 まだ見えぬ次の原理
評者/ジャーナリスト 中岡 望

『マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体 エージェンシー理論の光と影』ニコラス・レマン 著/藪下史郎、川島睦保 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile]Nicholas Lemann 1954年生まれ。ハーバード大学卒業後、ニューヨーク・タイムズなどを経て、99年から『ニューヨーカー』のスタッフライター。コロンビア大学大学院ジャーナリズム学科の学科長も務めた。著書に『ビッグ・テスト』など。

現在、世界は転換点に立っている。資本主義の終焉や企業倫理の荒廃、格差の拡大などの問題が指摘されている。本書は、3人の経営学者の理論に依拠しながら経済が「組織の時代」(A・バーリ)から「取引の時代」(M・ジェンセン)、「ネットワークの時代」(R・ホフマン)へと変貌したことを明らかにし、今後の経営の基本的な枠組みを提示する。

米国では産業革命後に大企業が登場する。大企業では所有と経営が分離され、経営者が権力を手に入れた。大企業による独占の弊害が表れると、政府は大企業の活動を規制する。その端的な表現がニューディール政策で、「資本主義の統制」が行われるようになる。米国でも終身雇用が経営の前提となり、経営者も従業員も組織内の利害に基づいて行動するようになる。これが「組織の時代」だ。この時代は「産業資本主義の時代」でもあり、米国経済は繁栄した。

だが、経済が低迷すると、政府の規制を緩め、経営権を株主の手に取り戻す「株主革命」が始まる。「企業経営者は株主によって選任され、株主の使用人として行動すべきだ」という考えが一般に受け入れられた。その背後には、市場が発するシグナル(価格)は公正かつ効率的であるという前提があった。株価上昇を通して企業価値を最大にすることが経営者の使命とされた。規制緩和により、金融が産業をリードするようになる。「取引人間は企業の解体や、再編成に従事する」。新しい金融手法が導入され、企業の買収や再編成が行われた。「取引の時代」だ。それは「金融資本主義」の時代でもある。

世界金融危機がこの時代を終わらせる。危機は「取引主導社会の理念のすべてを打ち壊した」。新しい原理が、「ネットワークの時代」だ。シリコンバレーでは「企業はもはや従業員に対して忠実でなくなった」。雇用も仕事も分散化、個人化する新しい経済組織が誕生した。ブルーカラーでもホワイトカラーでもない、「無色労働者」が登場してくる。

ただ、それによって将来が希望に満ちたものになるわけではないと、著者は楽観論を戒める。「ネットワークの時代」は巨大IT企業が支配する社会でもある。詳論する紙幅はないが、著者は将来の経済組織の指導原理は「利益集団による多元主義」だと主張する。残念ながら、本書を読む限りあまり説得力はない。

それでも本書は読み応えが十分にある。ただ、ひとつ不満を言うならば、「中産階級の解体」の詳細な分析がないことだ。