世帯全員が働き、所得増 消費こそが経済の原動力
評者/名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰

『勤勉革命 資本主義を生んだ17世紀の消費行動』ヤン・ド・フリース 著/吉田 敦、東風谷太一 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] Jan de Vries カリフォルニア大学バークリー校歴史学部教授。専門は欧州経済史、オランダ経済史。アナール派的構造主義アプローチとニュー・エコノミック・ヒストリーを組み合わせた研究で知られる。著書に『危機の時代のヨーロッパ経済』『ヨーロッパの都市化』など。

勤勉革命という言葉は、英国で産業革命が生産性を高めたことに対して、江戸時代の日本で労働投入の増加によって生産物を増やしたことを指している。

しかし、欧米でも世帯全員が生産行為や商業サービスに参加、つまり労働投入を増大させる勤勉革命が産業革命に先んじて進行していたと本書は指摘する。

産業革命の初期において、時間当たり賃金は増加せず、より多くの労働投入によってより多くの商品が提供され、それが消費を拡大した。労働投入の拡大と消費の拡大は相乗的で、分業による商品の大量生産が、それを求める人々の労働を増加させることになった。

心惹(ひ)かれる商品を手に入れるには、より多く働かなければならないからだ。すなわち、生産が消費を拡大させたのではなく、消費が生産を拡大させたというのである。

確かに、本書が提示する証拠は、そのことを示しているように思える。懐中時計、蒸留酒、コーヒー、白パン、陶磁器などさまざまなものが、魅力的な商品として挙げられている。さらに妻や子どもも市場で働き所得を手にすることで、彼らの欲求に沿ったものを購入するようになる。

ところが、19世紀半ばになり、産業革命が所得の上昇をもたらしたことが明らかになった後、女性の就業率は低下し、家計に占める夫の所得の比率が顕著に上昇する。「大黒柱と内助の功」のモデルの成立である。

そうなったのは、そのモデルが市場では得られない魅力的なものを家族に提供できたからだ。家庭の落ち着きや清潔さ、快適さを妻が提供し、夫がそれを心地よいものと評価するようになったのだという。その結果、ますます多くの男たちが給料をそのまま妻に渡し、そこから一定額を小遣いとして妻から受け取るようになった。日本でいえば、「夫は外で働き、妻は家庭を守る」モデルである。ここは現在の観点では反論があるところだろうし、事実、当時も女性の立場を弱めるものであるという批判があった。

しかし、再び女性の就業率は上昇していく。子どもを産み育てる期間に女性の就業率が低下する、いわゆるM字カーブが、欧米でも20世紀の初期に現れている。現在、欧米でM字カーブは解消されている。日本に起きていることが特殊日本的ではないと気づかされる。

生産を担う企業より生産されたものを消費する家計こそが経済を動かすという視点は新鮮で発見に満ちている。