中国の探査機「祝融」が地球に送ってきた火星地表の様子。国家宇宙局が公表した。探査機の名称は伝説の火の神にちなむ(CNSA/ 新華社/ アフロ)

「この辞書は暗記した。次はもっと分厚いのを覚える」

1996年、私は北京大学に留学した。そこで見たのは、全額奨学金を得て米国に留学するため、ガツガツと勉学に励む中国人学生の姿。当時、学部生宿舎は6人部屋、修士学生は4人部屋。個室がないため、彼らは朝7時から夜11時まで図書館に詰める。食堂もシャワーも、すべて図書館から通う。

50年代にソ連の援助で建設された物理学部の暗い建物には、白黒画面のコンピューターがあり、コマンド入力で電子メールが打てた。学生たちはそこから留学希望先に連絡し、自分の能力と熱意を伝え、見知らぬ教授たちを文字で説得する。それは静かな、しかし熾烈な真剣勝負の場だった。

「君は日本に生まれて運がいい。僕たち中国人は、これくらい努力しないと同じスタートラインに立てない。世界は不平等だ」

あれから四半世紀。不利な条件を一歩一歩克服してきた中国の科学者たちが、いま宇宙開発で次々と成果を挙げる。2016年には、世界初の量子暗号衛星「墨子」を打ち上げた。19年1月には「嫦娥(じょうが)4号」が世界で初めて月の裏側に着陸。20年12月には「嫦娥5号」の回収機が月の土を地球に持ち帰った(米国に続き44年ぶり)。「5号」本体は今年3月に地球と太陽の重力が釣り合うラグランジュ点に到達、地球観測を継続する。