新型コロナウイルスの感染拡大は私たちの社会に潜んでいた不満を浮き彫りにした。欧米では、アジア系の人々に対する差別的な行動が問題となるなど、社会的な対立が顕在化している。こうした問題を考えるうえで、私たちは「社会規範の役割」をより深く理解する必要がある。

社会規範とは、人々がどのような行動を取るべきかについての判断基準・価値観のことで、この規範自体も社会の中で形成される。社会規範が人々に強い影響を与える社会では社会的に望ましいとされる行動が誘発される、と多くの研究で明らかになっている。

社会規範は両刃の剣?

例えばコロナ対策では、政府の直接的な規制が欧米に比べて弱いにもかかわらず、日本の感染者数、死亡者数は現時点では比較的少ない。これについては日本人が社会規範を強く意識し、自粛や自主的な感染対策が促されたためである可能性が指摘されている。

一方、コロナ禍の中では、「感染対策の徹底が正しい」という規範を強く受け取った人々により、マスクを着けていない人を怒鳴りつける行為や、休業要請に従わない事業者への嫌がらせが発生した。いわゆる「マスク警察」や「自粛警察」だ。社会全体では望ましくない一方、自身の属するコミュニティーでは正しいとされる社会規範が形成されてしまうこともあるのだ。

つまり、社会規範の強さは、感染予防対策として望ましい行動を誘発する正の効果と、社会的な不和を招く負の効果の両面を持つ可能性が指摘できる。こうした負の影響は、歴史のうえでも、社会的な不満が高まった時期に大きな問題を引き起こしてきた。偏った考え方が規範により強化され、それがマイノリティーの人々への弾圧につながるという悲劇だ。