ジャーナリスト 池上 彰(いけがみ・あきら)1950年生まれ。東京工業大学特命教授、名城大学教授。慶応大学卒業後、NHK入局。報道記者やキャスターなどを務め、2005年に独立。『伝える力』『おとなの教養』『そうだったのか!現代史』など著書多数。(撮影:ヒダキトモコ)

忙しいビジネスパーソンは本を読む時間が取りにくい。書店に行っても、難しい本は敬遠して、自己啓発本を手にしてしまう。自己啓発本が悪いとは言わないが、スラスラ見て本を読んだ気になってしまう、というのはちょっと違うのではないか。

一方で、企業経営者などは、ものすごい古典を薦めたりするけど、これもやっぱりハードルは高い。在宅勤務が広がり、さらにゴールデンウィークに入るので、言ってみればその中間にあるような本を読んでもらいたい。

本当の古典を読めればいいのだが、そうでなくとも、うまく哲学や歴史などのリベラルアーツの世界に親しんでもらいたい。そういう思いがあって、比較的手に取りやすい、そして自分の生き方であるとか仕事のことを考えるきっかけになる本を選んだ。

真っ先に浮かんだのは、『組織の不条理』。日本軍がどのように失敗したのかについて、実にたくさんの本が出ている。太平洋戦争のときになんで日本はあんなにぶざまな負け方をしたのか、なんであんなにたくさんの人が亡くなったのか。それは当時の日本軍が極めて不合理で、論理的な思考ができなかったからだ、と評価する本が相当に出ている。

この本は、そうじゃないんだと、あれはあれで論理的だったんだと。日本軍の戦い方の歴史は、細かいところで非常に合理的であったからひどいことになったんだ。だけど、それは極めて不条理なことだったという。

ガダルカナルでの戦いやインパール作戦の大失敗は以前からいわれている。ガダルカナルの大失敗は、日本軍が戦力の逐次投入というものを行うたびに全滅を繰り返し、すごい数の人が亡くなる。ただそういうやり方は違うといって変えるのはたいへんなコストになる。目の前の段階を見ると、継続したほうが安く済む。部分合理性があったのだということである。

昔の知識を上書きする