思想家 内田 樹(うちだ・たつる)1950年生まれ。思想家、武道家。神戸女学院大学名誉教授。東京大学卒業。東京都立大学大学院博士課程中退。専門はフランス現代思想、教育論など。近著に『コモンの再生』『日本習合論』など。(撮影:松原卓也)

世界のこれからを知る、日本のこれからを知るという基準で「教養書」の選書を試みたが、世界の政治的な見通しについては、適当な本を見つけにくかった。一昔前なら、『文明の衝突』『歴史の終わり』など、大きな絵を描いた本があった。今は、そういう30年、50年のスパンで世界を見通すような人がもういないのかもしれない。人口動態や環境問題など社会的な大きな問題も考慮すると、政治よりも経済に関連する本のほうが納得のいくものが多い。

グローバル資本主義が終焉に近づいているという点で大方の人たちの意見はもう一致している。資本主義の暴走をどう抑制して、どう軟着陸させるのか、という技術的な議論にすでに局面は移っている。そうした問題を扱っている本の中で一般読者に読みやすいものを選んだ。

時代を先取りした宇沢

『資本論』を選書したかったのだが、残念ながらこれは「読みやすい」という条件を満たさない。代わりに斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』を挙げる。世界史的スケールで大ぶりの絵が描かれている。若くて勢いのある人でないと書けない本である。グローバル資本主義を終わらせなければならないという彼の確信の根拠にあるのは、環境破壊への強い危機感である。ただ、環境破壊リスクは地質学的なタイムスパンをとらないと見えてこない問題なので、当期の利益しか気にならないという人にとっては何の興味も湧かない論点である。そういう人はたぶん5ページぐらい読んだところで放り投げてしまうだろう。

水野和夫氏の『資本主義の終焉と歴史の危機』は経済史的なタイムスパンをとって、中世からの利子率の変化などから資本主義の終焉を結論する。統計データに基づいて、資本主義の命脈が尽きることの必然性を淡々と論じている。