安定化への大盤振る舞いが次なる危機を招くおそれ
評者/BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

『日本化におびえる世界 ポストコロナの経済の罠』太田康夫 著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile]おおた・やすお 1982年東京大学卒業、日本経済新聞社入社。外報部、前橋支局、金融部を経て、90年チューリヒ支局駐在、94年東京本社経済部、96年同次長、2003年編集委員を兼務。著書に『誰も知らない金融危機』『金融失策』『没落の東京マーケット』など。

政策金利がゼロ%前後まで低下すると、金融政策の効果は失われ、景気刺激もインフレ醸成も困難になる。日本の政策金利が0.5%を下回り、事実上のゼロ金利が始まったのは四半世紀も前だ。金融政策が効かないから財政政策を繰り返し、公的債務も膨らんだ。巨額の公的債務は資源配分を歪め、低成長や低インフレを助長する。

近年、米欧でも低成長や低インフレの傾向が続く。ゼロ金利政策も長期化し、日本のようになることが懸念されている。金融分析に定評のあるジャーナリストが米欧の「日本化」を多面的に分析した。

2013年に始まった日銀の異次元緩和も、結局、低成長とゼロインフレを解消できなかった。低成長をもたらす構造要因を解消しなければ、いくら大規模な金融緩和を行っても効果は一時的であることが、8年間の大実験で明らかになったのだ。利上げも選択できないため、最近は超金融緩和の長期化が金融システムへもたらす副作用の除去に注力するありさまだ。

気になるのは、本書の執筆後にバイデン政権が需給ギャップの3倍もの大規模な財政政策を決定したことだ。今度は財政政策の大実験が米国で試みられる。あまりの規模の大きさに、金融市場ではインフレ醸成の成功に期待を寄せる人も少なくない。ただ、米国も潜在成長率そのものが低迷しており、インフレ率が上昇したとしても一時的なもので、日本化の傾向は続くのではないだろうか。

コロナ危機では、政策が大き過ぎる失敗より、政策が小さ過ぎる失敗を避けるべきだとされ、先進各国で企業への手厚い資金繰り支援が行われた。存続が難しい低収益企業にも、潤沢な資金が供給された。コロナ危機の終息後に、市場から退出すべき企業が過剰債務を抱えて存続し、デフレ圧力を生み出すのではないか。本書では、これを日本化の類型として、ゾンビフィケーションと呼ぶ。日本も、程度の差はあれ、再びゾンビ企業に苦しめられるのだろうか。

欧米の政策当局者は、財政政策や金融政策などのマクロ安定化政策の不足が日本経済の長期低迷を招いたと考える傾向が強い。読了して思ったのは、逆に日本化を恐れ、大規模な財政政策や金融緩和に頼りすぎることが、バブル醸成や公的債務膨張をもたらし、低成長や低インフレ、金融システムの劣化を招きかねないということだ。米国では、政府から給付された現金を元手に、人々が株式投資にいそしむ。米国発の投機の泡に世界経済が沈むおそれはないか。