購買に関する性差に着目 示唆に富む成功事例多数
評者/スクウェイブ代表 黒須 豊

『女性たちが見ている10年後の消費社会 市場の8割を左右する「女性視点マーケティング」』日野佳恵子 著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile]ひの・かえこ 1990年に広島市で創業した株式会社ハー・ストーリィの代表取締役。地域の女性たちの消費者体験などを企業に届けるサービスを提供。2010年に東京を拠点に。月刊の女性消費者動向レポート「HERSTORY REVIEW」発行。著書に『クチコミュニティ・マーケティング』。

森元首相の一件もありジェンダーフリーが声高に叫ばれている。看過できない話だが、経営者たるもの、個人的な信条と違っても、所与の条件の下で企業価値の最大化を目指さねばならない。

本書は、女性起業家の一人として活躍する著者が、性別による考え方の違いを明確にした上で、消費全体にとって、女性視点でマーケティングを考えることの重要性を具体的な事例をさまざまに示しながら解説する。

著者らの調査によると、家族に関する49品目の消費財の購入は、女性(主に世帯主の配偶者)が63.3%の決定権を有し、かつ、9割の購入に対して影響を与えている。

これは、女性と男性の買物に対する思考の違いに関係するらしい。その違いとは、女性は男性と異なり、自分自身の買物だけでなく、家族のため、あるいは友人などのための買物について思考をめぐらす点という。そして、時に実際に買う(代理購買)。

本書では、女性の消費行動を、①生活基盤消費、②生活向上消費、③おせっかい消費、④代理購買消費、⑤交際維持消費、⑥クチコミ消費、⑦トレンド消費の7つに分類している。この中で、特に③おせっかい消費が、まさに前述の行動を見事に説明していると言えるだろう。

著者曰(いわ)く、女性は単にモノが欲しいわけではなく、そのモノを利用しているシーンを想像し、そこに登場する多くの人物にとって必要なものが何かまでをも思考する能力を有している。

言い換えれば、消費に際して女性はマルチ思考ができる。裏返すと、男性は単純ということになるが、評者を含めて明確に反論できる男性諸兄は少ないのではないだろうか。

本書は、公的機関のデータなどに自前の調査を加えて、女性視点のマーケティングの成功事例を多数紹介している。事実を踏まえた解説は説得力に富んでいる。

また、成功事例の鮮度もいい。ワークマンをはじめ、スープストックトーキョー、ディーン&デルーカ、パスコなど著者自身が調査に関わった比較的新しい事例が取り上げられており、読者は今日的で新鮮な気付きを得ることができるだろう。

一方、既存理論との関係性や学術的な論証が少なく、アカデミックな領域における分析が不足している印象は拭えない。その意味で当該分野の研究者には物足りないかも知れないが、経営に関わる実務家にとっては、有意義なヒントが詰まった必読書と言っても決して言い過ぎではない。