米中ロはすでに戦争状態 攻撃の予期と拠点特定がカギ
評者/帝京大学教授 渡邊啓貴

『サイバーグレートゲーム 政治・経済・技術とデータをめぐる地政学』土屋大洋 著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] つちや・もとひろ 慶応大学法学部政治学科卒業、同大学大学院で修士号、博士号取得。現在同大学大学院政策メディア・研究科教授。著書に『情報とグローバル・ガバナンス』『ネット・ポリティックス』『サイバーセキュリティと国際政治』など。

いわゆるICT(情報通信技術)関係の書籍は専門用語と特殊な思考経路が散見され、読みにくいことが多い。本書は国際政治における情報・サイバー研究の第一人者が、メディアでも話題となった事件を専門用語も含めて平明に解説しつつ、物理的な軍事力に代わり、サイバー空間での力がどれだけ国際関係の行方を左右するかを教えてくれる啓蒙と警告の書だ。

「グレートゲーム」は19世紀後半から20世紀初頭のロシアと英国による中央アジア、中東の覇権争いを指す。「サイバー」を冠した表題は、ユーラシアにおけるロシア、中国そして米国による現代の情報戦を意味している。

今日の戦争は陸、海、空に加え宇宙という自然領域にとどまらず、第5の次元としてのサイバーという人工的な領域も含む領域横断的な様相を呈している(第6の次元は電磁波)。いわゆる「ハイブリッド戦争」である。

新たな領域の攻撃に備えるためには、予想の技術を駆使した「予期」と攻撃の拠点の「特定」の2つが重要で、これらが本書のキー概念となっている。サイバー研究は副題にあるユーラシアをめぐる「地政学」の領域と無縁ではない。

ハイブリッド戦争がNATOで強く意識されたのは2008年のグルジア(ジョージア)戦争、14年のウクライナ戦争でのロシアのサイバー攻撃だ。グルジアでは多数のインターネットサーバーがロシア側に制御された。物理的な戦争が伴わなくても情報攪乱が可能で、他国の政治に大きな影響を及ぼし得ることは16年の米国大統領選挙で明らかになった。

著者は、中国や北朝鮮の情報機器、システムの不正な取得、使用という「サプライチェーン・リスク」も注視する。ファーウェイ排除に見られる米中技術覇権争いは日ごとに熾烈化しているが、そこでの米国の試行錯誤、悪戦苦闘ぶりは読み応えがある。

また、1970年代からの米国のインテリジェンス活動を振り返ると、トランプ前大統領の特異性が目立つ。フェイクニュースの発信源でありながら、当人がこの分野での知見に乏しかったことは、余りにも逆説的だ。

国際社会の新しい領域であるサイバー空間を統(す)べるグローバルなガバナンスはいまだ確立していない。著者は国連をはじめとするそうした試みに注目しつつ、厳しさをます日本を取り巻く国際情勢に対するインテリジェンスの重要性を指摘する。これこそまさに、今日の防衛論の基となるべき礎石ではないだろうか。