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『ファシズムへの偏流 ジャック・ドリオとフランス人民党』 『アート思考のものづくり』『101歳現役医師の死なない生活』ほか

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いかに仏共産党指導者はナチス協力者となりしか
評者/関西大学客員教授 会田弘継

『ファシズムへの偏流 ジャック・ドリオとフランス人民党』竹岡敬温 著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] たけおか・ゆきはる 1932年生まれ。京都大学文学部卒業、大阪大学大学院経済学研究科博士課程中退。阪大、大阪学院大学で教鞭を執り、現在、両大学の名誉教授。専門は社会経済史。『近代フランス物価史序説』『世界恐慌期フランスの社会』など著書多数。

まさに時代に翻弄された生涯だ。フランスのナチス協力者の領袖(りょうしゅう)と、彼が率いたフランス人民党の消長を描く。20世紀前半に世界が直面した思想上の難局が凝縮されている。学術的な書だが、一級の文学作品のような深い読後感を読者は得るだろう。

労働者の味方となり平和を求めた共産党指導者ジャック・ドリオは、スターリニズムとナチズムという20世紀世界が生み出した2つの狂気に振り回され、ファシスト政党を創設。ついには銃をとってヒトラーの軍隊にまで加わりスターリニズムと戦うが、ナチズムに踊らされた揚げ句、非業の死を遂げる。

若きドリオを迷走に追いやったのは、フランス共産党を意のままに操ろうとするモスクワの策謀だ。ファシズム勢力と戦うには社会党との統一戦線が必須だと訴えるドリオを、国際共産主義運動の方針に逆らったとして除名する。除名と同時にモスクワが発した指令は統一戦線であった。

雄弁でカリスマ性を持つドリオのスターリニズムとの戦いは、この仕打ちに端を発する。共産党と国際共産主義運動に対する「すさまじい憎悪」がドリオの「その後の変化のすべての萌芽」だった。ドリオに限らず、世界中の多くの転向者は、似たような憎悪を持ったのだろう。本書が子細に描くドリオの事例をたどることで、転向を生んだスターリニズムの非道を読者はまざまざと知る。

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