消費低迷が停滞の根因 カギは被用者社会保険料か
評者/BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

『日本経済の長期停滞 実証分析が明らかにするメカニズム』小川一夫 著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] おがわ・かずお 1954年生まれ。神戸大学経済学部卒業。米ペンシルベニア大学Ph.D.取得。神戸大学経済学部助教授、大阪大学社会経済研究所教授を経て2017年から関西外国語大学教授。専門は経済統計学。著書に『「失われた10年」の真実』。

2000年代初頭、不良債権問題こそが日本の失われた10年の原因とされた。しかし、それが解決された00年代後半以降も低成長は続いている。本書は、計量経済分析の泰斗が、30年に及ぶ長期停滞の原因を解明した読み応えのある1冊だ。

確かに、不良債権問題が終息すると企業の収益率は改善した。しかし、その後も企業の保守的行動は変わらず、正規雇用を非正規雇用で代替するなど、コスト削減で利益を捻出するリストラが常態化し、低水準の設備投資が続いた。計量分析から、企業の投資行動を左右するのは、長期の経済成長見通しであることを改めて確認する。

筋肉質となり、生産性も向上した企業がなぜ悲観的な見通しを続けるのか。問題は供給サイドではなく、需要サイド、とりわけ消費低迷にあることを統計的に見出す。近年の法人税減税の効果が乏しかったのが納得できる。

それではなぜ消費低迷が続くのか。個票データの分析から、公的年金制度の先行きに懸念を持つ家計が、消費を抑制していることを突き止める。国民の安心のために行ったはずの制度改革だったが、年金保険料が増えると、人々はむしろ貯蓄を増やし消費を抑制した。ただし、夫婦ともに正規雇用の場合、過大な貯蓄は行われていない。

非正規雇用の増大や年金制度への懸念から消費が低迷し、その結果、企業が悲観的な見通しを続け、設備投資に慎重となって経済停滞が続くという一連のメカニズムが見出される。望む人が正規雇用される環境の整備と、信頼に足る年金制度の確立が不可欠と論じる。評者も本書の分析と提言に全面的に賛同する。

難題は具体策である。00年代以降、政府は高齢化で膨らむ社会保障給付を政治的反発の少ない被用者の社会保険料の引き上げで賄ってきた。企業の人件費負担は膨らみ、これも非正規雇用を増やす要因になったと思われる。もし消費増税で対応すれば、輸出の際に還付されるから、競争力に悪影響を及ぼさず、正規雇用を非正規雇用で代替する圧力も多少は和らいだだろう。

1国全体の付加価値は労働所得と資本所得に分けられるから、消費税は労働所得と資本所得への課税となる。このため、労働所得課税である被用者の社会保険料の引き下げと、消費増税をセットにすれば、事実上の資本課税となる。消費増税だけでは逆進性が大きいが、被用者の社会保険料の引き下げとの合わせ技にすれば、本書の提言に沿う消費対策になるのではないか。