坂部篤志さんの母親が「同席拒否」と書くように促されて書いたかんぽ生命保険の「ご契約内容確認書」(記者撮影)

かんぽ生命保険の不適正募集で最も有名な事件は、東京・八王子郵便局の郵便局員が坂部篤志さんの母親をだました事件だ。

2017年8月、坂部さんの母親の家に訪れた3人の郵便局員は「手続きをすれば篤志さんと弟さんに均等に保険金が行きます」と、まるで変更手続きであるかのように装い、契約の際には母親(当時76)に「(家族)同席拒否」と書くように促した。また、健康状態の告知書を半分に折って質問事項をわからないようにして「すべて『いいえ』にマルをするように」と指示して坂部さんの母親に契約をさせた事件だ。

後からわかったことだが、あと2年で満期を迎える養老保険の解約金を2つの新契約の保険料に充て、不足分は86歳から90歳になるまで4年間、月4万円弱ずつを払う設計になっていた。保険料総額は656万円で、死亡時に受け取る保険金額500万円を大きく上回る不利益変更だった。事件発覚から1年4カ月後、『週刊東洋経済』2018年11月24日号で詳報した。

坂部さんの発信がなければ発覚が遅れていた

坂部さんは自身のかんぽ被害を「プロキオンの気付きのブログ」で発信し続けるなどして、かんぽや郵便局の不正を指摘してきた。坂部さんのブログが2018年4月24日にNHK「クローズアップ現代+(プラス)」が放送した「郵便局が保険を“押し売り”!?」の番組制作につながり、後に不適正募集の大量発覚をもたらした。当時の坂部さん親子は仮名でクローズアップ現代に出演していた。

それから1年余り。「顧客に不利益を生じさせる募集が多数判明し、ご迷惑とご心配をおかけしている」。かんぽ生命保険の販売業務を受託している日本郵便の横山邦男社長が、会見でそう謝罪したのは2019年7月10日のことだった。「坂部さんのSNSによる拡散がなければ、あと数年、不適正募集の発覚は遅れたかもしれない」(東海地方の郵便局員)と言われる。

早くから郵便局員の営業問題に対し声を上げていた坂部さん親子は、早期の不正発覚を促した重要な存在だったといえる。そうして、かんぽ生命のお客様相談室課長とコンプライアンス調査室の上席専門役が訪れたのは2020年10月15日午前10時のことだった。

以下は、訪れた2人と坂部さん親子のやりとりの一部始終だ。相談室課長は冒頭「不適正な募集であったことが判明いたしましたので、お詫びにお伺いさせていただきました。(契約から)3年という長い月日で、本当に申し訳ございませんでした」と詫びたが、その釈明は納得いくものではなかった。

2017年に契約を無効にする際、坂部さん親子は当時郵送されてきた「合意書」について問い直した。そこには、「(契約に関する)一切の事項を甲及び乙以外の第三者に開示しない」という一文があった。つまり、この契約を無効にするやり取りは第三者に口外してはならないということだった。坂部さんと母親は当然、これを拒否。その後、新契約の振込用紙が何度も送られてきたが、振り込まずにいたら新契約は自動失効。単に養老保険を満期前に解約した形になり、新たな保険には入らずに済んだ。

訪れた2人に対して、坂部さんの母親はそのときのことを振り返り、こう話しかけた。

坂部さんの母親 私はかんぽさんともすごく古い付き合いだったんですが、子供たちが生まれたときからすぐ学資保険に入ったり、働き出してからも全部貯金のつもりで郵便局にしていました。(2017年の不正な契約について)あれだけ信頼していたのに、という思いがいっぱいになりましたね。
上席専門役 本当に、本当に申し訳ございませんでした。