政府が2020年12月に策定した「グリーン成長戦略」において、水素産業は「カーボンニュートラルのキーテクノロジー」に位置づけられている。

水素分野の中でも日本がリードしているのが、水素と酸素の化学反応によって電気をつくり出す燃料電池の研究開発だ。日本は、燃料電池車(FCV)や家庭用燃料電池エネファームの製品化を世界でいち早く実現している。

だが、欧州や中国の追い上げは激しく、日本の優位性に危うさが漂う。燃料電池産業の集積を進める山梨県と、東京都内の水素ステーションの取材を通じて、日本の現状と課題を検証した。

基礎研究で日本を先導

一般にはあまり知られていないが、山梨県は日本における燃料電池の研究開発の一大拠点だ。大学と行政、企業が一体となり人材育成や用途開発に取り組んでいる。

基礎研究を担うのが山梨大学だ。中でも山梨大の燃料電池ナノ材料研究センターは、電極や電解質膜などの研究における論文数や特許取得数のランキングで、国内の大学のトップを走る。

トヨタ自動車が世界で初めて製品化したFCVのMIRAI(ミライ)に関しても、山梨大で研究に従事していた学生がサプライヤー企業に入社し、触媒に用いられるプラチナ・コバルト合金の開発を担ったというエピソードがある。トヨタのMIRAIで採用された合金触媒の候補となった材料は、燃料電池の世界的な研究者である渡辺政廣特命教授を中心とした山梨大の研究成果に基づいて開発されたものだという。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によって採択され、19年度までの12年にわたって続けられてきた燃料電池の材料に関する研究事業においても、山梨大の成果は傑出している。