元社員による金銭の不正取得問題を受け、第一生命は2020年12月に会見を開いた(撮影:梅谷秀司)

「当社の企業風土や体質そのものに問題があったと認識している。被害者の方々には深くお詫び申し上げる」

第一生命保険の稲垣精二社長は2020年12月22日、東京・日比谷の本社で行った記者会見で、元営業職員等による一連の金銭詐取事案についてこう陳謝した。

会見では、山口県の89歳の元営業職員による約19億5000万円の巨額詐取事件と和歌山県の元営業職員による約6000万円の詐取事件に加えて、福岡県や神奈川県などで新たに3人の社員が契約者に不正を働き、金銭詐取を行っていた事実が明らかにされた。これまでに判明した被害者は59人、被害総額は約20億7000万円にのぼる。

2カ月で約700件の問い合わせ

被害の発覚が広がっている背景には、10月2日に山口県の元営業職員の金銭詐取事件が公表されたことで、それを見た契約者から「私も同じような事態になっていないか」など問い合わせが入っていることがある。同社のコールセンターには12月上旬までの約2カ月間で約700件の問い合わせがあったという。

12月の会見で稲垣社長は、「(今後も新たな不正が)発覚するかもしれない。もしわれわれが把握していないものがあれば、できるだけ早く表に出して解決したい」と語った。

同社の個人保険・個人年金保険の契約者数は約800万人。この全契約について、営業職員が金銭搾取などの不正が行われていないかの調査を行うという。今回発覚した事件と類似した手口で被害に遭っていないかどうか、契約者貸付制度や据置金の引き出しを利用した契約者を対象に調査する。

今回、第一生命で発覚した金銭詐取事案の多くは、「契約者貸付が(元営業職員に詐取された)資金の原資に使われていた」(第一生命の田口城・コンプライアンス統括部長)という共通の特徴がある。

契約者貸付とは、保険契約の解約返戻金の7~8割を上限に保険会社からお金を借りられる制度のことで、カードローンやキャッシングなどと比べても金利は比較的安い。

19億5000万円を詐取した山口県の不正事案では、「特別調査役」という肩書を得た元社員が契約者貸付などを利用させ、それを原資に架空の金融取り引きを持ちかけて金銭を搾取していた。そして、契約者1人を除き、すべて現金の手渡しの形で金銭を預かっていた。

また、和歌山県の事案では50代の元営業職員が契約者に無断で契約者貸付や解約などの手続きを行い、「誤って手続きをしたため、振り込まれたおカネを回収したい」と説明して、金銭を不正取得していた。

12月22日に新たに発表された福岡県の事案では30代の元営業職員が「金銭的な優遇制度がある」と契約者に持ちかけて、契約者貸付などの手続きに誘導していた。2019年4月からの5カ月間で被害者3人、被害額約865万円だった。

優秀な営業職員に物言えぬ風土

こうした不正の背景について同社が12月に公表した報告書では、金銭授受を一切禁止するルールや不正行為の予兆を把握するための管理・監督が不十分だったことに加えて、特別調査役のように多くの新規契約を獲得する営業職員の特権意識を醸成させてしまったことや、成績が優秀な営業職員に対して社員が強くものを言えなかったことがあるとしている。

稲垣社長は「営業職員や営業現場を大切にするという風土が、逆にお客様にこのような迷惑をかけることになってしまった、表現は良くないかもしれないが、『性悪説』に立ってしっかり管理する必要があると経営陣一同が認識を改めている」と反省する。

第一生命の今回の問題は、営業職員を主力チャネルとする国内の生保各社にとっても対岸の火事ではないだろう。数千人から数万人単位の営業職員を管理する難しさは、ビジネスモデルに違いがない以上、変わりはないからだ。

こうした中、業界団体の生命保険協会は12月、国内の全生保42社に対して、営業職員チャネルのコンプライアンスの実態に関するアンケート調査を始めた。営業職員を抱える生保各社に、管理体制や不正防止の取り組み、予兆把握の方法などを調査する。第一生命の金銭詐取事件のように、高齢の営業職員の定年制度や認知判断能力についても尋ねている。

生命保険協会では「各社の実態を把握後、結果を各社にフィードバックするほか、対外的に公表することも検討したい」と話している。

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