知られざる思想家に焦点 トランプ現象の奥に迫る
評者/関西大学客員教授 会田弘継

『アメリカ保守主義の思想史』井上弘貴 著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] いのうえ・ひろたか 1973年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学。博士(政治学)。神戸大学国際文化学研究科准教授。専門は政治理論、公共政策論、アメリカ政治思想史。著書に『ジョン・デューイとアメリカの責任』。

バイデン新大統領率いる米国の民主党政権がいよいよ発足する。しかし、コロナ禍対策の失敗にもかかわらず大統領選挙で全投票数の47%、7400万票を獲得した共和党のトランプ現大統領は政権を去った後も影響力を維持しそうだ。いったい何が起きているのか。左右の「分断」が背景だとの説明では割り切れない。その奥を知りたいと思うなら必読の書である。

大きく2つのテーマが描かれる。冷戦期に始まる戦後米国の保守思想史の概要と、トランプ登場によるその再編の動きだ。米国人による簡潔な通史の邦訳もあるが古い。トランプ現象まで通観するには本書が格好だ。

日本では一般に知られていない重要な思想家に焦点を当て、米国保守思想の持つ特異性を浮かび上がらせている。著者が注目するのはフランク・マイヤーやハリー・ジャファ、ジェイムズ・バーナム、サミュエル・フランシスといった、今は亡き思想家らだ。

保守や右派の思想といえば、復古的な反動を思い浮かべがちだ。だが、逆に復古から革新性をすくい上げる面があることは、日本の戦前の右翼思想を振り返ってもわかる。

米国の保守思想家の革新性は、マルクス主義の洗礼を受けた経験も背景となっている。前述の4人の中ではマイヤーとバーナムに、それが特徴的にみられる。日本的に言えば「転向」経験である。

著者の功績はいくつも挙げることができる。まず冷戦期の米国保守思想の特徴である「融合主義」の立役者、マイヤーの思想を、簡潔ながらも深く掘り下げ紹介した。自由主義を掲げて出発した米国において、もう1つの米国の伝統である宗教性と自由の兼ね合いは深刻な課題であった。断固たる反共産主義と建国思想への回帰で両者を結びつけたマイヤーの思想的営為と重要性を緻密に描いた。

ジャファ思想の紹介も功績だ。亡命ユダヤ人思想家レオ・シュトラウスの影響を受けたジャファは、シュトラウス思想によってリンカーンや米国建国の父祖らを読み解く独自の作業を行った。いまその思想が見直されている。トランプ現象を機にした米国ナショナリズムの再興を刺激しているとみられるからだ。

バーナムはテクノクラート支配の問題を1940年代から警告していた。それに反発する白人中産階級の力に注目したフランシスの分析も興味深い。これからの米国を見通そうとするなら、単に「分断」で割り切れないトランプ現象とその後を、本書によって考えてみることを勧めたい。