英オックスフォード大学教授 苅谷剛彦(かりや・たけひこ)1955年生まれ。米ノースウェスタン大学大学院博士課程修了、博士(社会学)。東京大学大学院教育学研究科助教授、同教授を経て2008年から現職。著書に『階層化日本と教育危機』『増補 教育の世紀:大衆教育社会の源流』『教育と平等』など。(撮影:尾形文繁)

新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの意識に大きな影響を残しそうだ。その1つがナショナリズムの喚起である。感染拡大を恐れた各国政府が直ちに行ったことの1つが、国境閉鎖や入国管理の強化であった。各国が国境によって囲まれた自国民を守ることで、普段はそれほど意識せずに済む国境の意味が先鋭化した。

新たな国際比較も始まった。定期的に発表される国ごとの感染者数や死亡者数、その人口比といった数値である。まるでそれが各国のコロナ対応の成績表であるかのような読み取り方も行われた。

政府の対応策の評価という意味づけだけではない。そこに「国民性」を読み込み、それによって自国民を評価(賛美)するような言説も広まった。曰(いわ)く「日本人は○○人に比べ、衛生観念や健康意識が高い」「他人の視線に敏感だからマスクの着用率が高い」「罰則付きの法律で規制しなくても自粛で対応できる」など。感染の影響の違いを国民性に還元する見方である。それを肯定的に行うことで国民性の優越感に結び付ける、ナショナリズムの昂進(こうしん)である。