デジタル化で成長継続可能? 格差拡大、社会分断に課題
評者/BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

『MORE from LESS(モア フロム レス) 資本主義は脱物資化する』アンドリュー・マカフィー 著/小川敏子 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile]Andrew McAfee 1967年生まれ。マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学で学位を複数取得。現在MITスローン経営大学院首席リサーチサイエンティスト。デジタル技術の世界への影響を研究。著書に『機械との競争』(共著)など。

菅義偉首相は2050年までの脱炭素化を掲げた。グリーンとデジタルの融合が成長戦略になると確信したのだろう。はたして成長と脱炭素の両立は可能か。飽くなき成長を求める資本主義が地球を破壊する、という主張も勢いを増す。本書は『ザ・セカンド・マシン・エイジ』などの著作で、デジタル社会の到来をいち早く予測した経済学者が解決策を探ったもの。

驚いたことに、投入資源より多くのものを産出する時代の萌芽は1970年代に生じていた。より高い利益を追求しコスト削減を求める資本主義と、テクノロジーとの組み合わせがそれを可能にしたという。さらにデジタル革命によって脱物質化が本格化しているため、成長を諦める必要はないと主張する。実感に乏しいのは日本の脱物質化が遅れているからだろうか。

しかし、人々の欲望に任せたままで大丈夫なのか。地球温暖化の核心は市場メカニズムが機能しない外部性にあるため、資本主義をコントロールする市民の自覚と政府の規制が不可欠という。豊かになった人々が健康や安全を志向し、それに対応した政府規制が行われ、先進国からは公害が消えた。中国も公害を解消しつつあり、今や欧州と並ぶグリーン大国に変貌しそうだ。インドやインドネシアは絶望的に見えるが、国民の健康や地球環境に配慮しない政権は存続が難しいということか。

振り返れば、オゾン層を破壊するフロンガス問題は、技術革新と国際協力でほぼ解決した。ハードルは高いが、各国が炭素税を導入すれば、温暖化ガス問題も解決可能という。農業分野でも、技術革新で、水質汚染をもたらす窒素肥料の投入は減り、農地が縮小する一方、産出量は増加を続けている。耕作放棄地を森林に戻せば、脱炭素も後押しできる。温暖化防止の観点から小規模農家保護も見直すべきだ。

残念ながら本書は、デジタル資本主義のダークサイドである経済格差と社会資本劣化への解決策は提示できていない。脱物質化は、工業社会の時代に確立した地域社会を破壊し、社会分断を加速させる懸念もあるという。地域社会の再生には、資本の論理だけでなく、コモンズ(共有地)の論理も必要と評者は考える。

本書は安全な技術としての原発推進も提案するが、地震が多発し原発事故を経験した日本での受け入れは容易ではない。ただ、一気に再生可能エネルギーに転換すると産業界や電力業界、金融界は様々な負担増に耐えられない。既存原発の一定期間の稼働の容認が焦点となるのだろう。