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『財政赤字の神話 MMTと国民のための経済の誕生』 『WEAK LINK コロナが明らかにしたグローバル経済の悪夢のような脆さ』ほか

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受容には常識が邪魔するが財源の使途重視には共感
評者/北海道大学教授 橋本 努

『財政赤字の神話 MMTと国民のための経済の誕生』ステファニー・ケルトン 著/土方奈美 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] Stephanie Kelton 1969年生まれ。カリフォルニア州立大学サクラメント校で経済学を専攻、ケンブリッジ大学で修士号、米ニュースクール大学で博士号を取得。現在ニューヨーク州立大学教授。バーニー・サンダース上院議員が設立したシンクタンクで顧問も務める。

財政赤字が膨らめば国は破綻すると言われるが、では赤字の上限はどのあたりにあるのだろうか。

現代貨幣理論(MMT)の旗手たる著者によれば、これまで政府は誤った考えにとらわれてきた。いわば天井高が250センチメートルもある家の中で、ずっと背を丸めて歩く180センチメートルの男のように経済を運営してきたという。政府は、通貨価値の下落やインフレが起きなければ無尽に国債を発行できるのであり、赤字財政はそれほど問題ではないというのが本書の主張である。

かなり危険な考え方にみえるが、実際問題として、日本では累積債務が増大しても円の価値は下落せず、インフレもほとんど起きていない。アベノミクス以降、財政赤字の拡大が問題にならない経済状況が続いている。これは現代貨幣理論の正しさを実証しているのではないか。

だが、この新しい理論を受け入れるためには、私たちは経済常識のいくつかを捨てる必要があるだろう。例えば政府の収支を家計との類比で捉える発想は間違っている。赤字はその分だけ誰かの黒字になるのだから、財政赤字は問題ない。政府は貨幣発行権を持っているのであり、家計と同じように考える必要はないと著者は説く。

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