経済格差は民主主義への脅威 資本課税強化の検討が必要
評者/BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

『つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等』エマニュエル・サエズ、ガブリエル・ズックマン 著/山田美明 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] Emmanuel Saez 1972年生まれ。米カリフォルニア大学バークリー校教授。主な研究分野は不平等と税政策。
Gabriel Zucman 1986年生まれ。米カリフォルニア大学バークリー校教授。専門は世界的な富の蓄積と再配分。

今回の米国大統領選でも経済格差の拡大が論点になった。イノベーションの果実がアイデアや資本の出し手に偏っていることだけが理由ではない。富裕層に有利な税制も格差拡大を助長している。本書は、先進国で経済格差が広がっていることを広く知らしめたピケティの共同研究者らが綿密なデータ分析をもとに、米国の格差の実態とその処方箋を論じたもの。

1980年代のレーガン税制改革による所得税の最高税率引き下げが一巡した後も、各国で法人税率の引き下げ合戦が続いている。富裕層の所得は、主に所有する株式など金融資産から得られる。ゆえに、法人税率の引き下げは、富裕層の実効税率の低下につながる。今や一般労働者と同じか、それを下回る。大富豪投資家のバフェットが秘書よりも実効税率が低いと告白したことは記憶に新しい。

ただ、超党派で意図的に累進課税が骨抜きにされてきたわけではない。まず法の抜け穴を突く租税回避が爆発的に増え、政府が富裕層への課税は無理だとあきらめ、税率を引き下げるパターンが繰り返されてきたという。

当初は法人税減税で企業誘致や設備投資が増えると主張する人もいた。ところが、企業はペーパーカンパニーをタックスヘイブンに設立して利益を移転。結局、多くの国で税収が減っただけだった。こうして、各国とも租税収入は、消費税や平均的な労働者への課税が中心となる。

本書は、各国が法人税に共通の最低税率を導入することや資本課税強化を提案する。消費性向の低い富裕層に課税し、社会保障などの拡充で、消費性向の高い低中所得層に所得移転するのなら、マクロ経済的にもネットでプラス効果が得られると評者は考える。資本は逃げ足が速いとの反論もあるが、当初から各国が協調すれば、不毛な税率引き下げ合戦は回避できたはずだ。

富裕層の積み上げる貯蓄は、金融仲介を通じ、低中所得者が借り入れし、消費を賄っている。近年、米国でもわずかな利上げで景気が腰折れするのは、低中所得者の過剰債務が原因だろう。富裕層への所得集中を許せば、経済問題にとどまらず、健全な民主主義をも危うくする。

評者は長く、日本の増加する社会保障費には消費税引き上げで対応するというコンセンサスを支持してきた。が、コンセンサスの定着当時は、デジタル革命がもたらす経済格差の問題は十分認識されていなかった。日本でも選択肢の一つとして資本課税強化を検討することが必要だろう。