大阪大学の安田洋祐氏は、自身もオークション分野の研究を専門の1つとしている(撮影:今井康一)
2020年のノーベル経済学賞受賞者が決定した。アメリカ・スタンフォード大学のオークション理論の専門家2人、ポール・ミルグロム氏とロバート・ウィルソン氏だ。彼らは学術的な貢献にとどまらず、その知見を基に、アメリカでオークションの制度設計を行い、現実の社会にも貢献している。
彼らの功績は、ビジネスパーソンにとっても見逃せないテーマだ。今回は、オークション理論の専門家である大阪大学の安田洋祐氏に話を聞いた。前編では、身近な例を取り上げながら、主に両氏の理論的貢献の意義に触れたい(後編は「ノーベル賞受賞の理論が現実を変える」)。

理論だけでなく実際に使える制度を設計

──今年のノーベル経済学賞を、この2人が受賞した理由を教えてください。

ミルグロム、ウィルソン両氏は、それぞれがオークションの基礎理論に対して大きな貢献をしています。この点だけでもノーベル賞を受賞しておかしくないくらい重要な学術的貢献を2人ともがしている。でも、今回とりわけ重要なのは、彼らが理論だけではなく自分たちの研究をベースに、現実に使える、実用に耐える、しかも「複数のアイテムを同時に売る」という難しいタイプのオークションの制度設計をし、成功させたことです。

ノーベル賞の選考委員が発表した授賞理由に沿って説明しましょう。最初に取り上げられているのは、ウィルソン氏のほうですが、それは83歳の彼のほうが年上で、もう1人の受賞者であるミルグロム氏の研究にも、ウィルソン氏の理論がベースとしてあるからです。

ウィルソン氏がパイオニアとして行った仕事が、「共通価値(コモン・バリュー)」のオークションと呼ばれる状況の分析です。

現実の例としてしばしば挙げられるのが原油の採掘権のオークションですが、掘ってみて出てくる原油それ自体、つまり今埋まっているもの自体は、誰がオークションの勝者であろうと変わりません。よって、埋もれている資源の価値はどの買い手にとっても同じはず。共通価値は、このように事後的に得られる価値が誰にとっても同じであることを指します。

一方で、実際に埋まっている原油の量や質に対する見通しは企業ごとに異なるかもしれない。その見通しの違いが入札額の違いにもつながってきます。誰も実際の価値が正確にはわからないので、情報収集をするわけですが、このケースだと、近くの地域で試し掘りをすることが多い。その結果をシグナルとして、全体でこのくらいの埋蔵量があるんじゃないかという推測をします。このとき、たまたま試し掘りで原油がたくさん出てきた、つまりよいシグナルを受け取った人は楽観的な見積もりをし、逆に悪いシグナルを受け取った人は悲観的な見積もりをします。

さて、ここで問題になるのが、どのくらいの金額で入札すればいいかということです。注意が必要なのは、単純に自分の見積もりに基づいて入札をしてこのオークションの勝者となり、落札できたとすると、それは払いすぎで実際には損をしてしまうケースが多いこと。なぜなら、自分以外のオークション参加者がより低い価値をつけた、つまり悪いシグナル受け取っていた採掘権に、自分は最も高い価値を見いだしていたということになるからです。

自分が楽観的な人間であることを忘れ、自分の受け取ったシグナルに基づく見積もりが正しい埋蔵量だと思って入札してしまった。このとき、落札者は「高値つかみをしてしまったのではないか」という不安にとらわれる。こうして結局、損をしてしまうことが、「勝者の呪い(ウィナーズカース)」と呼ばれるものです。