かない・まき 1974年生まれ。テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て、2015年から文筆家、イラストレーター(本書のイラストも担当)。農業経験は田植えの手伝いを5回ほど。著書に『世界はフムフムで満ちている』『酒場學校の日々』『パリのすてきなおじさん』など。(撮影:梅谷秀司)
マル農のひと
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その男、道法正徳(どうほうまさのり)。広島県のミカン農家に生まれ、大学卒業後に農協の指導員となるが、キャリアを積むほど従来の農法に疑問が募る。ミカンの声を聴き続けた結果、「苗木を緊縛」「立ち枝を伸ばす」「肥料不要」など手間暇かけずに儲かる革命的な農法にたどり着く。なんとミカン以外にも適用できるのだ。農協退職後は内外で普及に従事する自称、レジェンドと、農法の実践者たちに迫った。

肥料不要の「儲かる農業」、実践者も個性派ぞろい

──3年半前に革命的農法を聞かされ、どう思いましたか。

本当かなと思いました(笑)。だます気はなくても、その人が信じていることが科学的には根拠がないという話は世の中にたくさんあります。それらとどう違うのかわからなかったので、版元の社長、編集者に一緒に話を聞いてもらったら、彼らは「これはすごい、本にしよう!」。ところが、現場で道法さんに広島弁で「これじゃ」と実物を見せられても、知識がなくて評価できないんです。それで、だまされるときは一蓮托生(いちれんたくしょう)って。

──(笑)その状況がどれくらい?

9カ月くらいでしたか。もともと、私の「面白い人好き」を知る友人ら数人を介してお会いしました。初対面のときに「革命的なことなんじゃ!」と言われても革命以前を知らないのでまったくわからず。仲介した方々は、道法さんの農法の入門的な教科書を書ける人を探していたのですが、それは無理。でも、道法さんの面白さはわかったので、それを糸口に何か書けるかもしれないと思いました。

実際、組織の中でどう暴れたかとか、左遷に次ぐ左遷だったとかを、農協を辞めて10年以上経っていたからか面白おかしく話してくれました。ただ、聞けば聞くほど、組織の中でよくそんなことできたな、と。反骨の人なのかと思ったけど、そうじゃない。農家のために熱心にやっていたら、「今までのやり方は違うんじゃないか」。例えば、従来は収穫しやすさもあって上に伸びる立ち枝は切り、枝は横に伸ばします。毎年同じようには実を結びませんが、皆が同じだから問題にならない。試しに立ち枝を伸ばしたら樹形もいいし、これまで以上に実を結ぶ。農家のためにやっていたら、結果的に過去の否定になったわけです。

とにかく答えはミカンにある、でブレない。うまく育たなければ自分の責任と実にシンプル。