不動産業界が注目していたビッグディールが、動いた。

東京・虎ノ門に立つJTビル。その名のとおりJTが本社を構えていたが、2020年10月に近隣の「神谷町トラストタワー」へ本社を移転することに伴い、ビルは入札にかけられた。虎ノ門という都心にある35階建ての超高層ビルまるまる1棟という希少な出物に、国内外の投資家が触手を伸ばした。

今夏に実施された入札には、多数のファンドやデベロッパーが参加。ビルの帳簿価格は昨年末時点で土地が214億円、建物は188億円。下馬評では「出せる金額は頑張っても700億円」(外資系不動産ファンド)。今年で築25年と維持費がかさむことや、「自社ビル仕様で建てられているため、ビルの大きさに比べて賃料を取れる床が多くない」(関係者)という事情もはらんでいた。

複数の関係者によれば、住友不動産が約800億円で取得するという。賃貸ビルとしての運用を想定する海外勢に対して、中長期的に再開発を企図する住友不が一段高い金額を提示して競り勝ったようだ。本誌の取材に対して、住友不はコメントを避けた。

虎ノ門のJTビルには約800億円もの値がついた

背景に銀行の融資姿勢

「銀行から受けた融資の額が、その不動産の価値を表す。銀行が融資する限り、不動産価格は下がらない」。ある不動産会社幹部の言葉が、現在の不動産が置かれている状況を象徴する。実体経済や企業業績は軟調でも、金融環境は良好。リーマンショック時と異なり、金融機関が不動産への融資を急激に絞る気配は見られない。手元資金を抑えつつ不動産を取得できるため、投資家の鼻息は荒い。

海外勢の投資意欲も旺盛だ。視点を世界へ移すと、日本の不動産投資市場はある意味、コロナ禍で「再発見」されたともいえる。米不動産サービス会社CBREの辻貴史マネージングディレクターは、「日本はコロナによる死者数が少なく、欧米に比べて経済への打撃が限定的だ。アジアのほかの都市に比べて市場も大きく、日本が見直されている」と分析する。コロナ禍を契機に、新たに日本へ参入する投資家も出現。一部では国内の不動産業界から担当者を引き抜く海外投資家もいるという。