友人・知人のネットワークはSNS(交流サイト)上の友達関係に表れ、職場の人間関係はメール・電話のやり取りや頻度から推測されうる。安全保障の世界ではテロリスト同士の人的なつながりが重要だという。

これらの社会ネットワークは、人々の行動に影響を与える。例えば、友人・知人のSNS投稿から影響を受けて商品を購入した経験はないだろうか。また、同じ部署に営業成績のよい人がいると、切磋琢磨やノウハウの共有により、同僚が営業成績を上げることもあるだろう(逆もありうるが)。

従来、社会ネットワークの研究は、先進国の事例を対象として、社会学などを中心に発展してきた。肥満が家族や友人関係を通じて伝播することを明らかにした研究などが有名だ。また、最近注目された感染症の数理モデルは、接触のプロセスをネットワークとして捉え、ウイルスがそれを通じて広まっていくことを分析している。

一方で今、これまでの知見を発展途上国の文脈に適用する試みが開発経済学の分野で加速度的に進んでいる。途上国の農村部では、近所付き合いや、世帯間の関係が密であることが多い。ある世帯が新しい技術を採択する際に口コミ情報を参考にするなど、社会ネットワークが重要な役割を果たしているのだ。本稿では、この新技術採択への影響が実際どのようなものなのかを、マイクロファイナンス(小規模金融)、新しい農法、トイレの3つの事例から紹介する。

誰に情報を与えるべきか

開発経済学で社会ネットワークを大々的に取り上げた研究のはしりとして、マイクロファイナンスの採択に関する研究がある。この研究では、インドのカルナタカ州農村部の75の村を対象に、数万人への調査が行われた。莫大な研究費を投じて途上国における巨大なデータが生成されたことで、同分野でそのデータを用いた多数の研究が続くことになった。