いつき・ひろゆき 1932年生まれ。作詞家、ルポライターなどを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、76年『青春の門 筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞受賞。『大河の一滴』、長篇『親鸞』など著書多数。

「定年」の文字が消え、「生涯現役」も夢の話ではなくなりつつある。そんな時代を生き抜くすべとは何か。88歳の作家・五木寛之氏に聞いた。

──『大河の一滴』など、いま五木さんの作品が多くの人に支持されています。

昔から「五木は暗い」と言われてきたんです。ネガティブシンキングですから。『大河の一滴』『下山の思想』を書いたときも、そうでした。日本はもう1回、頂上を目指さなければならない。そんなときに「下山とは何事だ」とね。

僕にとっては登山の過程より、下山の過程のほうが面白い。文明というのは、下山の過程で成熟するものだと考えているためです。

世の中というのは、不合理で、矛盾していて、努力しても必ずしも報われるとは限らない。そういうことが積み重なっていく不条理な状態をブッダは「苦」と表現しました。

「苦」というのは苦しいのではなく、思ったとおりにいかないということ。不条理という言葉がぴったりなんです。人生は不条理なものだと。その中で何とか生きていくためにはどうすればいいのかということを、論理的に教えたのがブッダという人物でした。