無条件降伏で抱えた「ねじれ」被支配下、追求した繁栄、民主
評者/関西大学客員教授 会田弘継

『アメリカの世紀と日本 黒船から安倍政権まで』ケネス・B・パイル 著/山岡由美 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] Kenneth B. Pyle 1936年生まれ。米ハーバード大学歴史学部卒業、ジョンズ・ホプキンス大学にて日本政治史を専攻し、博士号取得。64年以降、ワシントン大学教授(歴史学、アジア研究。現在は名誉教授)。邦訳のある著書に『欧化と国粋』『日本への疑問』。

「アメリカの世紀」と呼ばれた20世紀、その超大国がつくった国際秩序に最も強い影響を受けたのは、対極的な文化を持つ日本だった。「不自然な親密さ」とも呼ばれた日米関係について、米国の日本研究の泰斗が考察をまとめた。単なる史書を超え、文明論的スケールを感じる。

米国により破壊し尽くされ、憲法も書き換えて「従属国」になった日本が、いかにして経済復興に集中し大国としてよみがえったか。また、強制された自由と民主主義を市民社会がいかに受け止め、独自の民主主義獲得に苦闘してきたか。本書の読みどころだ。

戦後日米関係の原点は、戦争目標としては異例な「無条件降伏政策」にあり、影響は甚大で今も続いていると著者はみる。その目標のため原爆が使用され、日本の完全非武装化だけでなく米国に似せた国家改造を目指し、憲法まで変えた。こうした政策には当初から米軍や米政府内に強い疑念の声があったという。

新憲法には、占領軍内のニューディール派が理想主義の実現を図った一面があった。だが、当の占領軍内の法律家でさえ「米軍の厚顔ぶりに身震い」し、民主的でない組織である軍を使って民主化を行うという発想の「論理矛盾」を批判している。戦後日本の原点のねじれである。著者は、これにより日本人が「自らの歴史と伝統に従って自身を改造するまたとない機会を奪われ」たことを惜しんでいる。

その中で1954年の第五福竜丸事件を受け3000万筆を超える署名を集めた核実験禁止運動や、数百万人がストやデモに参加した60年安保闘争、最近では大災害時に万人単位で駆けつけるボランティアの活動まで、市民運動が活況を呈したのも事実だ。特殊日本的な「共同体民主主義」が生まれたとの見方もある。

従属国の立場を逆手にとり政治・安全保障での国際的関与を避け、経済復興を最優先とした吉田茂首相の路線を長く続けて経済大国としてよみがえった。そこで生まれた、米国型とは違う「国家資本主義モデル」にアジア諸国が追随し、今日のアジアの興隆が起きた。これを近代日本の夢の実現とみることもできよう。

ただ、すべては米国のつくる国際秩序の下で達成された。今その秩序が崩れかけ、米国による異常な「日本支配」の時代が終わりつつあると著者は言う。台頭する中国が、1世紀前の日本のように太平洋を挟んで米国と覇権を争う。

「属国」など率直な表現は著者の誠実さの表れだ。本書の描く過去をひるまずに見据え、日本の将来を考えたい。