東奔西走した財務官の証言、為替政策で怖いのは円安
評者/BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

『通貨・租税外交 協調と攻防の真実』浅川雅嗣 著/聞き手 清水功哉(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] あさかわ・まさつぐ 1958年生まれ。81年、東京大学経済学部卒業後、大蔵省入省。主に国際畑を歩み、麻生内閣時には首相秘書官としてリーマンショックに対峙。2015年からは財務省財務官を史上最長期間務める。20年からアジア開発銀行総裁。

為替レートが大変動する場合、行き過ぎを避けるために日銀が市場へ介入する。ただ、日銀は代理に過ぎず、為替政策を決定するのは財務省で、財務省には財務官という為替政策など国際問題を担当する次官級ポストがある。本書は、2015年から19年までその任にあった財務官僚の証言だ。定評ある金融記者の質問に答える形で、複雑な通貨、租税外交の現場をわかりやすく伝える。

在任中、米国経済は回復傾向にあった。本来、米国金利が上昇しドル高になりやすいはずだが、人民元急落やブレグジット、トランプ大統領誕生など大事件が重なり、円高が進んだ。いかに経済がサービス化したといっても、1ドル=100円を割ると輸出企業が騒ぎ出し、風景はがらりと変わる。また、為替介入を米政府が受け入れるかどうかもわからない。行間には為替介入に踏み切れない苦悩がにじむ。

興味深いのは、為替政策の観点から、円高ではなく、むしろ円安が怖いと論じる点だ。理屈上、円高阻止のための円売り介入は無制限に可能だが、円安阻止のための外貨売り介入は外貨準備に制約されるため、という。公的債務が大幅に積み上がり、円安が行き過ぎた場合、日銀が利上げで阻止することは公的債務管理の観点から容易ではない、という問題もあるのかもしれない。

16年の大統領選挙中、トランプ氏は日銀の金融緩和が円安を引き起こし米国の輸出を不利にすると繰り返した。米政府の物言いでアベノミクスの枠組みが崩れれば一大事と、ワシントンに飛び、米国高官を通じ説得に乗り出す。トランプ政権発足後、通商交渉が始まると、円安封じのため米国は通商協定への為替条項の導入を求める。金融政策や為替政策が通商政策に制約されるのを避けるべく、折衝に当たる。安倍政権は政策の決定過程で財務省を排除したが、通貨外交においては財務省に頼っていたのだ。

租税外交も著者のライフワークだ。かつて国際租税の問題は、企業が国内と海外とで二重に課税されることだった。近年は、巨利を得たグローバル企業がどこにも税金を払わない、二重非課税の問題が生じている。先進国の集まりであるOECDの租税委員会の委員長に選ばれ、解決に先鞭をつけたのが著者だった。

また、過去30年、企業を誘致しようと各国は法人税の切り下げ合戦を続けてきたが、消耗戦になるだけと、共通の最低法人税率の導入を提案する。後任により現在も交渉が続けられるが、導入に到れば、税制の大転換となる。