今年は米国の人種差別に関する事件が多く報道されている。この社会は多様な背景を持った人々で構成され、共生社会化の努力が望まれている。本稿では差別をなくす可能性のある「インクルーシブ教育」について、筆者の研究を交えて解説したい。

差別をテーマとする有名な経済学研究の1つに、米国の就職市場における人種差別を調べた論文がある。白人・黒人それぞれに多い名前の架空の履歴書を無作為に企業に送るという試みで、たとえ学歴などの個人属性が一緒でも、白人の名前の履歴書の通過率が高いことを実験的に実証したものだ。

差別を定量的に測定する

近年はジェンダー差別なども議論が重ねられているが、これら差別の測定に用いられるツールの1つが「ゲーム実験」だ。ゲーム実験にはゲーム理論の厚い理論的背景と定量的な観察の両立という利点があり、多くの研究がこれにより差別の観察を進めている。

観察の次に求められるステップは、差別をなくすことだろう。身近な取り組みでいえばダイバーシティー&インクルージョン(多様性とその包摂)に力を入れる企業の研修や、NGOのワークショップなどがある。また、社会全体で差別をなくす取り組みの結晶がSDGs(持続可能な開発目標)で、近年、各国が政策化している。

SDGsに明記された差別解消政策の1つがインクルーシブ教育だ。これは、ジェンダー・人種・障害などについて多様な背景を持つ子どもたちを、分離せず、同じ教室で一緒に教育するという野心的な取り組みで、教育資源の不平等是正が大きな目的とされる。同時に、子どもたちがおのおのの多様性を早くから認識することで、差別意識の芽生えを抑えようという理想と願いも含まれている。