9月14日に自民党の総裁選挙が行われ、菅義偉氏(官房長官)が選出された。菅氏は377票、岸田文雄氏(元外相)が89票、石破茂氏(元防衛相)が68票を獲得した。当初、自民党の地方党員の票は石破氏に流れるとの見方が強かった。しかし筆者はそのような見方にくみせず、地方票でも菅氏が圧勝するとみていた。それは安倍前政権の特徴が首相のカリスマ性に依存しないシステムであり、このシステムが継承されるか否かが自民党総裁選の争点だったからだ。筆者はこのシステムを太平洋戦争前の天皇機関説との類比で「首相機関」と呼んでいる。天皇機関説とは、大日本帝国憲法(明治憲法)の解釈をめぐる一学説で美濃部達吉によって代表された。〈この学説の特色は、“統治権は天皇に最高の源を発する”という形で天皇主権の原則を認めるが、しかし同時に天皇の権力を絶対無限のものとみることに反対する点にある。すなわち統治権は天皇個人の私利のためではなく、国家の利益のために行使されるのであるから、国家はその利益をうけとることのできる法人格をもつもの、したがって統治権の主体であり、天皇は法人としての国家を代表し、憲法の条規に従って統治の権能を行使する最高“機関”であると規定する〉(『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、ジャパンナレッジ版)。

菅氏、岸田氏のいずれが総裁に就任しても安倍前政権の首相機関は維持されるが、その場合でも7年8カ月続いたシステムの力は弱くなる。ただし、菅氏が総裁になったほうが、システムの弱体化をミニマム(極小)にできる。首相機関というシステムにとっては、菅氏はマイナスをミニマム化するのに適当な選択肢だったのだ。

これに対して石破政権が成立すれば、システムが破壊されるおそれがあった。国民の視点から解釈すると、システムが維持されれば安定が続き、破壊されれば混乱に陥る。コロナ禍に直面した国民は、混乱を避けたいと考えている。この国民心理を、自民党の地方党員も共有していたのだと思う。